エジソン社の作品 1912年(9)

「THE CHARGE OF THE LIGHT BRIGADE」

 エジソン社製作。サール・ドーリー監督。

 クリミア戦争での実際の出来事を元にした、アルフレッド・テニソンの詩をモチーフにした作品。誤った命令により窮地に陥るも、英雄的に戦う兵士たちの姿を描く。

 800名に及ぶ米兵の協力を得て撮影されたという戦闘シーンは、当時としては他に類を見ない規模となっている。だが一方で、有名な出来事ということもあって、出来事自体の説明はあまり詳しくない。そのため、正直言って、何がどうなっているのかがよくわからなかった。戦闘シーンの個々の迫力は伝わってくるものの、戦闘シーンをうまく語る点までは考慮されていない印象を受けた。

 米軍の協力を得られたのは、エジソン社の製作であるという面が大きいのではないかと思われる。その意味では、エジソン社のパワーの大きさも感じさせる作品だ。



「THE USURER'S GRIP」

 病気の子供の治療費に困った夫婦は、新聞に載っていた高利貸しに手を出してしまい、支払いが滞ってしまう。そんなとき、夫が勤めている会社のボスが、高利貸し摘発の公的機関と、安い金利で金を貸してくれる機関を教えてくれる。

 当時、エジソン社は赤十字などの多くの団体と組んで、社会啓蒙的な映画の製作を行っていた。この作品もそうした作品の1つである。そこで語られた問題の中には現在では解決されたものも多くあるが、高利貸しの問題は今でも存在している。

 単純な宣伝映画ではなくドラマとして作られているが、同じ高利貸しを扱ったD・W・グリフィス監督のドラマ「THE USURER」(1910)と比較すると、高利貸しに追い詰められた家族の描写など格段に落ちる。



「HOPE A RED CROSS SEAL STORY」

 ある田舎町で、結核にかかった女性。彼女は恋人にも父親にも告げずに、ニューヨークのサナトリウムに入所する。

 当時結核は治療法のない病気であり、かかったら療養するしかなかった。また、空気の悪い都会の病気という誤解されたイメージがあった。

 この作品はエジソン社が結核の予防と研究を行う機関などと協力して制作した作品であり、田舎の町での結核サナトリウムの必要性を訴えた作品である。最後には、結核と戦うために寄付金つきの切手を買おうと訴える。

 エジソン社は、劇映画の分野では他社に勝つことができずに衰退していくが、この作品のような社会啓蒙的な作品を多く残している点は評価に値するだろう。



「A SUFFRAGETTE IN SPITE OF HIMSELF」

 女性参政権に反対の初老の男性は、子供のいたずらにより背中に「VOTES FOR WOMEN」の貼紙を貼られるが気づかない。男性は、女性参政権反対論者の男性たちとトラブルになり、女性参政権論者の女性たちに助けられる。

 この作品はロンドンで撮影されており、舞台もロンドンに設定されている。当時、イギリスでも女性参政権の問題は大きくなってきていた。実際に、警察沙汰も起こっており、そうした実際の出来事をヒントに作られたと言われている。

 女性参政権反対論者が、逆の立場と勘違いされるという設定はベタだが、多少ヒネリが効いていて面白い。



「THE CRIME OF CARELESSNESS」

 とある繊維工場。工場主は、検査官の言うことを聞かず、非常口の前に置いた荷物をそのままにしている。労働者のトムはヒルダとの結婚を目前に控えていたある日、タバコを吸うために捨てたマッチに火がつき、工場を火事にしてしまう。

 1911年に、ニューヨークの繊維工場で100人以上の死者を出す、大きな火事があったのだという。この作品は、その出来事をモチーフにし、悲惨な事故を防ぐためには工場主や労働者たちが協力し合ってルールを守るべきだと訴えている。

 ミニチュアだと分かるものの、なかなか迫力のある火事による工場崩壊の様子が描かれている。



「WHAT HAPPENED TO MARY?」(1912) 

 製作国アメリ
 マクルーア・パブリッシング、エディソン・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督チャールズ・ブレイビン 出演メアリー・フューラー

 世界初の連続映画と言われている作品である。フューラーは現在では忘れられた名前だが、世界初のシリアル・クイーン(連続映画の女王)と言える。

 私が見たのは、数秒の映像の断片だが、窓からロープ状にした布を伝って下りるショットが収められており、危機また危機が、最初の連続映画においても見られるものであったことを教えてくれる。

Lost Serial Collection [DVD]

Lost Serial Collection [DVD]