トマス・H・インスの作品 1912年

「THE INVADERS」

 アメリカのケイ・ビー社による作品。トマス・H・インスがプロデュースしており、主演も努めているフランシス・フォード(ジョン・フォードの兄)かインス自身が監督を務めているという(共同監督の可能性も)。

 ケイ・ビー社は当時設立されたばかりの配給会社であるミューチュアル社傘下の映画製作会社であり、後に大プロデューサーとして有名になるトマス・H・インスが指揮をしていた会社である。得意としていたのは西部劇であり、この作品も西部劇である。

 スー族とアメリカ政府は、スー族のテリトリーを侵害しないという協約を結んだ。だが、そこに鉄道敷設のための土地調査に白人がやってくる。スー族は協約違反と怒り、白人との間で戦闘が起こる。

 約45分(三巻)のこの作品は、まだ1巻物(約15分)が中心だったアメリカ映画界においては大作だったという。ケイ・ビー社自身も、1巻物の西部劇を多く作っていたという。大作に名に恥じぬ堂々たる西部劇で、戦闘シーンには迫力があるし(白人の死に様はかなりリアリスティックで強烈だ)、ロケ撮影も効果的だ。

 加えて、この作品で特徴的なのは、ネイティブ・アメリカンの役をネイティブ・アメリカン自身が演じてるという点だ。この後のハリウッドが製作していく西部劇に登場するネイティブ・アメリカンは、白人がネイティブ・アメリカンの役を演じたものも多いことから考えると、興味深い事実である。

 内容も、ネイティブ・アメリカンを単なる悪役として描くのではなく、かといって褒め称えるのでもない。協約を破ったのは白人の側であるから白人にも非がある一方で、そのことへの怒りから土地調査にやってきた白人たちを皆殺しにするネイティブ・アメリカンのやり方はかなり残虐だ。映画は、どちらが正しいのかという点には答えを出さない。その代わり、この戦いの狭間で命を落としてしまうスー族の酋長の娘の死が、映画に悲しみを彩る。

 この映画を見ていると、その内容はまるで「ダンス・ウィズ・ウルブス」(1990)以後の西部劇を見ているかのようだ。ネイティブ・アメリカン=残虐な悪役という構図は、少なくとも1912年製作のこの作品にはない。この構図が完成されるのは、ハリウッドが成立してからの話だ。


「THE BALL PLAYER AND THE BANDIT」

 ブロンコ・フィルム製作、ミューチュアル・フィルム配給。

 トマス・H・インス製作、フランシス・フォード監督。

 大学の野球選手の主人公は、西部で強盗に会うも、持っていた野球ボールをぶつけて倒す。

 ロマンスも織り込まれているが、野球ボールで強盗を倒すというアイデア以外は、特に新鮮味はない。


「THE INDIAN MASSACRE」

 バイソン・モーション・ピクチャーズ、ニュー・ヨーク・モーション・ピクチャー製作
 モーション・ピクチャー・ディストリビューターズ・アンド・セールス配給
 製作・監督・脚本トマス・H・インス

 入植者の白人とネイティブ・アメリカンの間で戦いが起こる。戦いの後、子供を失ったばかりのネイティブ・アメリカンの女性は、置き去りにされた白人の子供を見つけて、連れ去る。子供の母親は、そのことを知り半狂乱となりながら、ネイティブ・アメリカンの元へと行く。

 当時、インスは西部劇を主にして映画を製作していた。カリフォルニアの広大な土地で撮影されたこの作品を見ると、空間の広がりやロケならではのリアリティが感じられ、インスがの作品が人気を得た理由が分かる。

 演出は舞台的で、同時期に映画技法を磨いていたD・W・グリフィスよりも単純だ。だが、アメリカ人に身近な題材を、映画ならではのロケによるリアリティで味付けをするという方法で、インスはアメリカ映画に新たな風を吹き込んだことは間違いない。



(DVD紹介)

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