マック・セネットの作品 1912年

「A DASH THROUGH THE CLOUDS」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 出演フレッド・メース、メイベル・ノーマンド

 ジョセフィーンは飛行機乗りのスリムと一緒に空中飛行を楽しみ、ジョセフィーンに恋するチャビーは嫉妬している。ある日、チャビーは仕事先で訪れたメキシコで追われる身となり・・・。

 すぐ後にキーストン社を設立するセネットによる、バイオグラフ時代末期のコメディ。追っかけなどキーストン時代の作品にも見られる要素はあるものの、比較的おとなしい。それよりも、この作品の最大のスターは飛行機である。ライト兄弟が初めての飛行を行ったのが1903年であり、飛行機はまだ珍しい乗り物だった。その飛行機をドラマに登場させただけで、この映画の価値はあったと言える。

 ヒロインのジョセフィーンを演じているのは、この後もセネットと行動を共にするメイベル・ノーマンド。彼女の目立たせる演出がされていないこともあり、この作品では地味だ。


「A SPANISH DILEMMA」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演マック・セネット 出演フレッド・メース、メイベル・ノーマンド

 ホセ兄弟は1人の女性を巡って争っている。カード対決や剣による決闘などを行うが、決着がつかない。

 追っかけなどの派手さも、ギャグもない作品である。すべてのラストのオチに収斂されているが、ありがちなオチで優れているとはいえない。


「THE BRAVE HUNTER」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演マック・セネット 出演デル・ヘンダーソン、メイベル・ノーマンド

 アフリカ帰りを自慢するハンターだが、小熊を前にして逃げ出してしまう。

 小熊をアクセントに使っている点が特徴的。だが、それだけと言ってしまえば、それまでの作品。


TOMBOY BESSIE」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド

 お転婆な少女ベッシーが悪戯をして、おばさんの恋路の邪魔をしたりする。

 ノーマンドの堂々たる主演作品。メアリー・ピックフォードが演じたようなキャラクターを嬉々として演じている。ノーマンドはこの後、セネットの元でスラップスティックの女王への道を歩むことになる。ノーマンドの顔は美人というよりも個性的なため、ピックフォードという巨人が存在する路線(明るくて、お転婆な少女)ではなくて、スラップスティックの方向に進んで正解だったことだろう。


「THE TRAGEDY OF A DRESS SUIT」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 脚本・出演メイベル・ノーマンド

 パーティに呼ばれたが正装を持っていない男が、他の男の服をクローゼットから盗む。

 メイベル・ノーマンドが脚本に名を連ねている。アイデアというレベルだろうが、ノーマンドが積極的に映画製作に係わっていた一端を知ることができる。だが肝心の内容は、コメディというほどの面白さのない作品になってしまっている。


「WHAT THE DOCTOR ORDERED」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演マック・セネット 脚本デル・ヘンダーソン 出演メイベル・ノーマンド

 医者の命令で高地での療養を命じられたジェンクスは、家族と共に雪の積もる山へと向かうが・・・。

 この頃のマック・セネットは、伝説的なキーストン社ではなく、当時D・W・グリフィスも所属していたバイオグラフ社でコメディの監督を任されていた。だが、特徴的なキャラクターがカオスを引き起こすのはキーストン社からのもので、バイオグラフ時代のセネットの作品は、普通の人々が状況に振り回されるシチュエーション・コメディに近い。だが、上映時間が乏しく捻りにも乏しいため、この頃のセネットの作品は、どれも中途半端な出来に感じられる。この作品も、そうした中途半端に感じられる作品の1つ。


「THE TOURISTS」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・製作マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド

 旅行客の1人の白人女性がネイティブ・アメリカンの男性と話しているのを見たネイティブ・アメリカンの妻が嫉妬して、他の女性たちと共に白人女性を追いかける。

 大勢の人が追いかけるというシチュエーションは、「追いかけ」映画として以前からあった。動きがあるため、人気を得たと言われている。この作品は、「追いかけ」映画の雛型に、ネイティブ・アメリカンの女性たちというアイデアを加えた作品である。


「THE FICKLE SPANIARD」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド

 どうしても毛皮が欲しい女性は、夫のポケットから金を盗む。

 この後、女性は買った毛皮を外のものと一緒に質に入れ、夫から質から出す金を貰おうと計画するが義母に知れてしまう・・・ということなのだと思うが、結局計画がうまくいっても毛皮を買ったことはバレてしまうと思うのだが・・・。コメディというよりは、ちょっとした小話といったところ。


「HELEN'S MARRIAGE」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、D・W・グリフィス

 トムはヘレンと結婚を認めさせるため、偽の映画撮影を計画する。

 この作品もコメディというよりは、ちょっとした小話。当時、セネットと共にバイオグラフ社に所属していたD・W・グリフィスが映画監督役として出演しているというお遊びもある。


「HELP! HELP!」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、フレッド・メース

 カーテンが揺れるのを見て強盗が押し入ろうとしている思った妻は、電話で夫を呼ぶ。

 怯える妻と、車で家に急行する夫。2人をカット・バックでつなぎ、サスペンスを高める・・・という手法はD・W・グリフィスが磨いた手法である。セネットはグリフィスと同じバイオグラフ社に所属し、グリフィスから編集技術を学んだと言われている。オチは予想できるというものの、編集の技術をコメディに持ち込んだ例として、記憶にとどめておいてよい作品である。


「HOT STUFF」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演マック・セネット 脚本デル・ヘンダーソン 出演メイベル・ノーマンド

 彼女を他の男に取られたハンクは、逆襲のために男が開いたパーティの料理にコショウを入れる。

 初期のセネットは自らも主演するケースがあった。この作品も、その1つ。セネットはコメディアンとしての才能に欠けたと言われるが、確かに面白くない。だが、代わりにどことなく哀愁を感じさせる部分がある。この作品でも、彼女を一方的に奪われるという可哀そうな境遇の男をミジメに演じて見せる。


「KATCHEM KATE」(1912)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督マック・セネット 脚本デル・ヘンダーソン 出演メイベル・ノーマンド

 探偵に憧れるケイトは、爆弾テロを計画する一味を発見し、計画を阻止しようとする。

 コメディとしては今一つだが、ノーマンドのかわいらしさが光る。


「THE WATER NYMPH」(1912) 

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督・製作・出演マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、フォード・スターリング、ガス・ピクスリー

 マック・セネットがバイオグラフから独立して作ったコメディの製作会社であるキーストンの最初期の作品。セネットがバイオグラフから連れてきたメイベル・ノーマンドが主演している。ノーマンドは水着姿も披露している。

 軽いコメディであり、ノーマンドの水着姿も控え目。面白さからいうと物足りないもものの、セネット、ノーマンド、スターリングといったキーストン社を支えた面々が揃っている姿は、学生映画のような楽しさが伝わってくるようだ。彼らの胸には、独立した映画会社を立ち上げた夢と希望と不安があったことだろう。