D・W・グリフィスの作品 1912年(2)

「THE SUNBEAM「日の光)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 舞台はあるアパート。動かなくなった母親を起こさない方がいいと思った少女が、同じアパートの向かいに住む、孤独な男性と孤独の女性のところに遊びにいく。少女のおかげで仲良くなった男女は、少女を部屋に送っていくと、そこには息を引き取った少女の母親の姿があった。

 全体的に明るい雰囲気で、グリフィスが苦手としていたというコメディの要素も多分に織り込まれた作品である。やんちゃな子供たちや、早合点しすぎの警官たちといった脇役たちがコメディ的な雰囲気を作り上げる一助となっている。グリフィスはそれまでと比較すると短いショットの積み重ねによって、多重的に物語を語ることを可能にしている。

 この作品の特徴は、短めのショットの積み重ねが、1本の線としての物語を追うことに終始しすぎず、雰囲気や人間性、運命の皮肉を感じさせることに成功している点が挙げられるだろう。

 少女が孤独な男女を癒し、結び付けていく点をきちんと描きながら、他の元気いっぱいに走り回る子供たちが、かわいらしくもどこか寂しげな少女の姿と好対照をなしている。子供たちがいたずらして、伝染病である「猩紅熱」という貼紙を男女(と少女)は一緒にいる部屋の前に貼ることで、一時的に部屋から出ることができなくなり、擬似家族のような関係となる。その一方で、少女の本当の母親は何かの病気ですでに亡くなっている。病気が少女から本当の母親を奪い、孤独な男女との距離を近づけ、最後には少女の新しい家族を見つけることになる。

 グリフィスはコメディが苦手だったらしい。確かに、この作品のコメディの部分はあまり笑えない。せいぜい微笑むくらいだ。しかし、重いラストを考えると、コメディの部分があまり笑えると見ている私たちは後ろめたい気持ちになってしまうかもしれない。ドタバタに微笑んだ私たちは、母親を失った少女が孤児にならなくて済みそうなことを映画のラストで知り、安堵の微笑みを浮かべることだろう。グリフィスがコメディの演出が苦手だったことが、この作品に絶妙のバランスを与えている。

 グリフィスは編集によって、様々な場所を平行して描いても観客がストーリーを理解できることを知り、短いショットの積み重ねによって、以前よりも複雑なストーリーを1巻物の枠に収めてきた。それはそれで映画の幅を広げたが、一方でストーリーを追うことに汲々として、それまでのグリフィス作品にあった叙情性が失われてしまった印象も受けた。

 この作品は、グリフィスが築き上げた短いショットの積み上げによる映画話法が、ストーリーを追うだけではなく、新たな叙情性を獲得することに成功した作品のように感じられた。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

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 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。