D・W・グリフィスの作品 1912年(4)

「THE FEMALE OF THE SPECIES(女性)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 砂漠に取り残された3人の女性。姉妹と赤の他人という構成の3人だが、死んだ夫を他人の女性が誘惑したと思い込んだ姉は、ことあるごとに嫉妬から他人の女性に殺意を抱いている。そんなあるとき、砂漠に取り残されている両親が死んでしまったネイティブ・アメリカンの赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。

 話としては、それほどおもしろいとは感じられなかったが、グリフィスの演出が光る作品となっている。

 たとえば、「砂漠」という過酷な環境の描写。荒れ狂う風に舞い上がる砂、乱れる女性たちの髪といったものがしっかりと撮影されており、字幕での説明がなくとも、3人の女性たちが陥っている厳しい状況が伝わってくる。

 また、たとえば「嫉妬」という心境の表現は、クロース・アップを使用することによって行われている。他人の女性に対する嫉妬によって気も狂わんばかりになっている姉の様子が、眼を見開いた凄まじい形相でハンカチを噛み切る(噛むではなく、噛み切る)様子をクロース・アップで撮影することで、映画に迫力を与えることに成功している(前述した過酷な砂漠の描写が、姉の狂気に真実味を加えている)。

 クロース・アップで描き出される姉の表情の演技は、多少オーバーにも思える。しかし、大げさな身振り手振りによって演じられる作品と比較すると、十分な迫真性を持っている。そして、それ以上に言葉がないサイレント映画の独特の表現として、サイレント映画ならではの魅力を与えることに成功している。考えて見て欲しい。この映画での姉の狂気の表情が、トーキーでカラーの今の映画に登場したらそれは不自然なことだろう。サイレント映画という、音を失った不自然な世界であるからこそ、説得力と迫真性を持った狂気の表現となるのだ。

 ちなみに、この作品にはメアリー・ピックフォードが妹役として出演しているが、大きな活躍は見せていない。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。