デンマーク映画、スウェーデン映画 1913年

 世界的に人気を得ていたデンマークでは、「アトランチス」(1913)が製作されている。

 当時の著名な劇作家ゲルハルト・ハウプトマンの小説を映画化し、アウグスト・ブロムが演出を担当した。アメリカにロケを行ったこともあり、制作費は50万マルクかかり、製作4ヶ月を要した。波間に漂い、次々に沈んでいく遭難者の様子を、遠浅の海でしゃがんで演技させるなどの工夫がされていたという。ドイツではヒットしたが、他の国では今ひとつだったという。その理由は、内容が複雑だったためで、タイタニック号の遭難という最近のニュースに便乗しようとしたが、失敗しているという。

 他には、ヴィルヘルム・グルックスタッツがダンマーク社で演出した「死の島」(1913)がある。ドイツの芸術写真に着想を得たもので、ソフト・フォーカスや照明が効果的に使用されているという。

 後に「魔女」(1922)などを監督するベンヤミン・クリステンセンが、「密書」(1913)を製作・監督・脚本・主演している。スパイの嫌疑をかけられた海軍将校が、銃殺刑直前に助けられるという内容の作品である。光と影を様式的に用って表現的な場面を見せる演出法は個性的で、同時代のいかなる映画作家の演出とも異なるという。この作品は、世界中で大ヒットしたと言われている。

 クリステンセンは、舞台から映画界入りした人物で。ダンスク・ビオグラフ社の「運命のベルト」(1911)に初出演した後、活躍を続けており、1913年にはダンスク・ビオグラフ社の社長となっていた。

 スウェーデンでは、ヴィクトル・シェーストレーム監督による「インゲボルイ・ホルム」(1913)が作られている。夫の急死などによって救貧院に収容され、子供を里子に出したインゲボルイは発狂するが、成長した息子が母親を探しにやって来て、正気に戻るという内容。当時の救貧制度に対する痛烈な批判にもなっているという。



(映画本紹介)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。