キーストン社の作品 1913年(5)

「PEEPING PETE」

 キーストン社製作 ミューチュアル社配給
 監督・製作マック・セネット 出演フィリス・アレン ロスコー・アーバックル

 西部のある街が舞台。女性を壁の穴から覗いていたピートが見つかり、追いかけられる。

 キーストンと言えば、ドタバタである。この作品は筋も中身もないと言っていいだろう。だが、妙に似合ったアーバックルの女装が見られる、アクの強い姿格好の人々の追っかけがある。初期のキーストン映画のショーケースと言える作品かもしれない。



「A STRONG REVENGE」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督・製作・出演マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、フォード・スターリング、ニック・コグリー

 仲の悪いシュニッツとマイヤーは、メイベル主催のパーティで臭いチーズを押し付け合う。

 匂いは、これまでにいくつかの試みはあったものの、現在でも映画で表現することができない分野である。だが、初期のサイレント・コメディを見ると、ネギばっかり食べている人物の口臭がネタになっている作品があったりと、表現できないはずの匂いが題材になっているものがいくつかある。匂い自体は伝わらなくても、匂いに反応する人々の姿は、サイレント映画なので言葉ではなく動きで表現され、その多くは大げさで面白い。

 映画で描くことができないものを表現するために、動きに頼らざるを得ず、それが面白さを生み出しているという構図は面白い。そして、それを実践しているセネットは、同時代の映画人の中でも優れたコメディのセンスを持っていることを証明している。



「THAT RAGTIME BAND」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督・製作マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、フォード・スターリング、ニック・コグリー

 ラグタイム・バンドが舞台に出るが、観客からブーイングを浴びる。

 バンドのリーダーがメイベルに恋をして、ミュージシャンのメンバーとやり合うといったストーリーはあるものの、それほど発展しない。舞台に登場する様々なヴォードヴィル芸も交えた、細かいギャグの積み重ねで構成されている。

 最も面白かったのは、舞台で踊る女性が、ボードの裏に書かれた連絡先を観客に見せて去っていき、劇場のマネージャーが怒るものの、バンドのリーダーが必死にメモを取っているというギャグ。当時のヴォードヴィルの世界も感じられるギャグだ。



「MABEL'S NEW HERO」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督・製作マック・セネット 出演メイベル・ノーマンド、ロスコー・アーバックル、チャールズ・インズリー

 恋人同士のメイベルとファッティだが、メイベルに恋する男に邪魔をされ、色々とあった後にメイベルが1人で気球に乗って飛び立ってしまい・・・。

 キーストン社時代に息の合ったコンビを組んでいたノーマンドとアーバックルが出演した作品だが、2人に加えてキーストン・コップスも登場する。だが、コンビもキーストン・コップスも、初期だったからか、いずれも個性を発揮してはいない。



「THE SPEED KINGS」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督ウィルフレッド・ルーカス 製作マック・セネット 出演フォード・スターリング、メイベル・ノーマンド

 メイベルと父親はカー・レースを見に行き、それぞれお気に入りのレーサーを応援する。

 キーストンの作品には、近くで行われる出来事を即興で取り込んだ作品が多くあるが、この作品もその1つだろう。カー・レースは新しいジャンルのスポーツとして人気を呼んでおり、レース自体を映像で見ることができたり、当時の名レーサーのバーニー・オールドフィールドが映っているだけで、当時の観客たちの気を引いたことだろう。だが、カー・レースを中心に据えており、コメディとしての側面にはあまり見所はない。



「COHEN SAVES THE FLAG」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督・製作マック・セネット 出演フォード・スターリング、メイベル・ノーマンド、ヘンリー・レーアマン

 メイベルを巡り対立するコーエンとゴールドバーグ。南北戦争が勃発し、出征した2人だったが、コーエンはゴールドバーグの部下になり・・・。

 キーストン社の作品と言うと、近所の公園を使ったり、近場で行われたイベント(カー・レースなど)を取り込んだりと、とにかく低予算で製作されたのが特徴の1つだった。そんな中、南北戦争を舞台に、大人数のエキストラを使ったのが、この作品である。

 なぜ、明らかに他のキーストン作品よりも製作費をかけて作られているのか?答えは簡単である。キーストンは、配給を担当しているミューチュアル・フィルムの子会社的な存在だった。そのミューチュアル・フィルムは、トマス・H・インスをトップに据えたドラマを製作する会社を持っていた。その関係で、インスが撮影する南北戦争映画の現場に行き、セットやエキストラも含めて撮影させてもったのだ。製作費はかかっていないのだ。

 当時のセネットの映画撮影術が感じられる点で面白い作品である。



「TOPLITSKI AND COMPANY」

 製作国アメリカ キーストン・フィルム・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
 監督ヘンリー・レーアマン 製作マック・セネット 出演フォード・スターリング、ニック・コグリー

 服屋をやっている2人だが、片方が片方の妻に惚れてしまい・・・。

 クマが登場したり、水着姿の男たちが街を走り回ったりと、いろいろな工夫が凝らされているスラップスティック・コメディ。