トマス・H・インスの作品 1913年(1)

「GRANDDAD」

 トーマス・H・インス監督、ブロンコ社製作、ミューチュアル社配給。

 かつて南北戦争に参加した祖父だが、飲酒を息子の嫁に責められて家を出ざるをえなくなる。養老院で働く祖父の元に可愛がっていた孫が現れ、祖父のことを両親に伝える。息子は孫とともに祖父を迎えに行くが、そこで出会ったのは、死の床に瀕している祖父の姿だった。

 1913年は、南北戦争の事実上の決戦と言われるゲティスバーグの戦いからちょうど50年にあたる年で、この作品以外にも南北戦争を扱った作品が多く作られたという。

 この作品は、祖父と孫のメロドラマという形式を取りながら、祖父がかつて南北戦争時に助けた南軍の兵士(祖父は北軍の兵士)が、かつての祖父の勇姿を語るという形で戦闘シーンも描くという構造になっている。

 メロドラマは、頑固なカトリック信者として祖父に冷たく当たるという悪役に徹している息子の嫁(再婚という設定らしい)の存在に、孫娘を演じるミルドレッド・ハリス(後にチャールズ・チャップリンと結婚)の可愛らしさや祖父を演じるウィリアム・デズモンド・テイラーの哀愁と力強さと人の良さを感じさせる演技もあり、なかなか感動的なものとなっている。特に、孫娘の存在に後ろ髪を引かれながらも、息子の説得を断り家を出ていった後、崖の上に立つ姿を、仰ぎ見るように撮られたショットは、祖父の決然とした力強さを感じさせるものがある。

 回想による戦闘シーンでは、戦場の真っ只中に置かれたようなカメラの位置が素晴らしく、D・W・グリフィスの戦争映画にもない臨場感のある構図となっている。ただ、殺しあう兵士たちの演技に緊迫感がないのが残念だが。

 世界で最初にプロデューサー・システムを敷いて成功させたと言われるトマス・H・インスの実力がこの作品でうかがい知ることができる。南北戦争に従事したアメリカ人の先人たちの功労を称える目的で作られた(そして、当時まだこの作品の祖父のように、南北戦争に従事したアメリカ人は生きており、市場のニーズとも合っていた)と思われるこの作品は、メロドラマと戦闘シーンを組み合わせた、なかなかの出来栄えで仕上がった作品となっている。



(DVD紹介)

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 アメリカの南北戦争を描いたサイレント時代の映画を集めた作品。日本ではなかなか見る機会が少ない、トマス・H・インスの作品も含まれている。