トマス・H・インスの作品 1913年(2)

「THE DRUMMER OF THE 8TH」

 トーマス・H・インス監督、ブロンコ社製作、ミューチュアル社配給。

 兄の南北戦争の出征を見て、ドラムを持ってこっそりとついていく少年ビリー。戦場で捕虜となったビリーは、脱走の途中、たまたま敵の司令官の計画を聞く。ケガをしながらも逃げ出し、何とか敵の計画を味方に伝えるビリー。しかし、ビリーの傷は悪化していく。

 甘くない作品である。特筆すべきはラストだ。ビリーのケガが悪化していくことは見る者にも伝えられる。だが、ビリーから母親に宛てた手紙には「無事に帰る」と書いてある。そして、帰還の日。列車からビリーは降りてこない。その代わりに兵士たちによって降ろされるのは、星条旗に包まれた棺だ。兵士たちは、ビリーの家に棺を運び、チャイムが押される。ビリーのためにささやかな祝福の食事を用意していた家族たちは、棺を見て愕然とすることしかできない。

 映画はここで終わる。この絶妙な終わり方、ビリーの死を見るものに効果的に伝える脚本の妙、そしてビリーの棺を前にして悲しみながら寄り添いあう家族たちの構図(これだけで一枚の絵画になりそうだ)、素晴らしいエンディングだ。

 このエンディングを可能にしたのも、ビリーの死があってこそだろう。子供の死を、この後のハリウッド映画は極端なまでに拒否していくことになる。だが、この映画は、ビリーの死をきっちりと描くことで、戦争の厳しさを描くことに成功している。ビリーの出征が、遊び半分であったことがまた悲しさを助長させる。

 大げさにお涙頂戴的に戦争反対を訴えるのでもない、かといって戦争を楽天的に捉えているわけでもない。ここには、悲しさが詰まっている。そして、悲しさが詰まったまま映画は終わる。これは、出来そうで出来ないことだ。



(DVD紹介)

Civil War Films of Silent Era [DVD] [Import]

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 アメリカの南北戦争を描いたサイレント時代の映画を集めた作品。日本ではなかなか見る機会が少ない、トマス・H・インスの作品も含まれている。