「LAST DAYS OF POMPEII(ポンペイ最後の日)」

 イタリアのアンブロージオ社製作のスペクタクル史劇。

 当時のアメリカ映画の標準がまだ1巻(15分)であった時代に、この作品は約90分の長尺となっている。翌年には同じイタリアで同じく長編の「カビリア」(1914)が製作され、さらに翌年にはD・W・グリフィスによる2時間半の「国民の創生」(1915)が公開され、映画界は長編時代へと入っていく。この作品は、長編作品のエポック・メーキングの1つとして、有名な作品でもある。

 内容は、古代のローマの都市ポンペイを舞台にしたメロドラマである。主人公のGlaucusにはJoneという恋人がいる。ある日Glaucusは苦しい生活を送る盲目の女性Nidiaを同情から引き取る。だが、NidiaはGlaucusに恋し、Joneとの関係に嫉妬し始める。かねてからJoneを狙っていたエジプトの神官の口車に乗せられたNidiaは、神官から毒薬を媚薬として渡され、Glaucusに飲ませてしまう。毒薬のために放心状態となったGlaucusはエジプトの神官に殺人の罪を着せられ死刑となり、ライオンに食べられそうになるが、そのとき火山が噴火してポンペイの街は崩壊する。

 Glaucusが死刑を宣告され巨大なアリーナでライオンに食べられそうになるシーンからは、スペクタクルシーンが続く。人件費の安かったイタリアだからこそ可能だったと言われるアリーナの観客席を埋め尽くす大群衆は、当時のアメリカ映画にはない魅力を放っている。火山が噴火してからのポンペイの街の崩壊は、なかなかの迫力があり、見応えがある。

 スペクタクルシーンに至るまでは、メロドラマが続く。といっても、退屈というわけではない。GraucusとJoneが抱擁する様子を後ろに捉え、画面の手前でNidiaが嫉妬に狂いそうになるシーンの構図とNidiaの表情(Nidia役のFernanda Negri Pougetは全編で素晴らしい演技を見せる)は素晴らしい。同情から助けたNidiaの嫉妬から、Glaucusが死刑になりそうになるという展開はシェイクスピアを思わせる悲劇性を持っている。

 演出は、当時既にグリフィスが編集やクロース・アップといった話法を確立していたが、この作品では最初にシーンの内容を説明した上で、固定されたカメラでワンシーン・ワンショットで撮られた映像が続くというタブロー形式の作品となっている。タブロー形式の場合、人物の心の機微が伝わりにくく、物語をなぞっているような印象を受けるが、この作品は長尺ゆえにストーリーを詳しく語る時間があるために欠点を補っているように思える。また、キャストの演技も欠点を補っている。

 この作品は、規模の大きなメロドラマである。このメロドラマは大きな悲劇性を持っており、スペクタクルもなかなかの見応えがある。短編がほとんどで、まだ大きなスペクタクル映画も少なかった1913年においては、なおさら見応えのある作品だったことだろう。



(DVD紹介)

Last Days of Pompeii [VHS] [Import]

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