「TWILIGHT OF A WOMAN'S SOUL」

 ロシアの映画作家エフゲーニ・パウエルのデビュー作。

 当時のロシアは、まだソ連になる前の状態だった。ロシア革命以後は、政府の意向に沿った作品が多く作られることとなり、セルゲイ・エイゼンシュタインを始めとする若い映画作家が台頭することになる。しかし、その以前からロシアでは劇映画が多く作られていた。また、外国の映画会社もロシアに進出していた。この作品は、ロシアの映画会社とフランスのパテ社が共同で製作された作品である。

 この作品は、バウエルのデビュー作である。といっても、1913年当時のバウエルの年齢はすでに48歳だった。それまでの彼は舞台のセット・デザインなどをしていた。この後、バウエルは1917年に死去するまでにコンスタントに映画を製作していく。

 上流階級の女性であるヴェラは、貧しい人びとに施しをすることに生きがいを感じている。だがある日、ヴェラが施しをしていた人物の1人であるマクシムにレイプされてしまったヴェラは、マクシムが寝ている隙に殺してしまう。そのことを隠し、同じ上流階級のプリンスと結婚をすることになるヴェラ。結婚初日にプリンスに過去を告白するも受け入れられず、ヴェラは出て行く。思い直したプリンスがヴェラを探すも、ヴェラは外国へ行ってしまっていた。

 上流階級を舞台としたメロドラマである。ヴェラが施しをする人びとは、みんながみんなヴェラの行為に甘えているように描かれ、まるでヴェラが浅はかでその報いとしてレイプされたかのように描かれている。当時のロシア映画の多くは上流階級を舞台にしたメロドラマであったというから、観客も上流階級を想定していた設定となっているのかもしれない。

 基本的に固定されたカメラで撮影されているが、この作品にはカメラの動き以上に魅力的な部分がある。それは、バウエル自身が担当したというセット・デザインだ。貧しい人びとのセットも良いが、それ以上に上流階級の人びとのセットがいい。ヴェラの寝室のシンプルさ、ゴテゴテと飾られた絵画の数々がかもし出すヴェラとプリンスの新居(となるはずだった部屋)の贅沢さ、バウエルの前の職業ゆえか舞台的ではあるものの、魅力的であることに変わりはない。

 もう1点特筆すべき点は、レイプ・シーンだ。実際のレイプのシーンの映像はない。襲うところまで撮影したあと、襲われて放心状態となっているヴェラとマクシムの姿が撮影されている。この後、マクシムは再び横になっているヴェラを抱き寄せる。このシーンが妙になまめかしいのだ。このなまめかしさは当時のアメリカ映画にはないものである。思えば、アメリカ映画では立って抱き合うシーンはあるが、横になって抱き合うシーンはない。今の基準から見ると、もちろん対した問題ではないかもしれない。しかし、ここでのぐったりとしたヴェラと、彼女をなまめかしく抱き寄せるマクシムの姿は、「レイプ」という強烈な事実を見るものに焼き付けるのに充分だ。

 ソ連以前のロシア映画のメロドラマであるこの作品は、アメリカ映画の(たとえばD・W・グリフィスの)現在に通じる話法によって綴られた明るいメロドラマとは異なる、暗いメロドラマである。ラスト、問題は解決することなく、静かに映画は幕を閉じる。それが、暗いメロドラマにはぴったりだ。



(DVD紹介)

「MAD LOVE」

 ソ連成立前の映画監督エフゲーニ・バウエル監督作品集。

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