イタリア ネオレアリズモの先駆的作品

 当時のイタリアの文学・演劇の世界では、18世紀末から19世紀始めにかけて、イタリア南部貧困階層を描いたヴェリスモ(真実主義運動)が起こっていた。

 ヴェリスモ(真実主義運動)の劇作家だったナポリのロベルト・ブラッコは、戯曲「闇に迷った人々」の映画化権をモルガーナ・フィルムに売っていた。

 モルガーナ・フィルム製作、ニーノ・マルトーリオ監督の映画版「闇に迷った人々」(1914)は、宮殿と貧しい裏長屋で物語が同時に進行するもので、貧しく不幸な若者たちの姿は、メロドラマ的だが社会問題の提起ともなっており、ブルジョワ・ドラマに慣れた人々に新鮮なショックを与えたと言われている。

 崩れた壁、汚い廊下、せまい横丁、すりへった階段。そして、何よりも苦しむ人々といった貧民街の描写には、後のネオレアリズモ的なものもみられるという。脚本、撮影(アングル・構図)ともに評価されたという。だが、ダンヌンツィオ主義映画の強さの前に、映画界全体へは影響を与えられなかったと言われている。

 後に、ネオレアリズモの理論的支柱と言われたウンベルト・バルバロは、ローマのチェントロ(映画実験センター)でファシズム体制下でもこの作品を生徒に見せ、戦後の映画人に影響を与えたといわれている。1本しかなかったプリントは第二次大戦後のドイツ軍のローマ占領中に失われたという。

 ニーノ・マルトーリオは、1914年にチネス社からモルガーナ・フィルムに移籍した人物。シチリアの俳優ジョヴァンニ・グラッソ主演の「ブランコ船長」(1914)の映画化も行っていた。



(映画本紹介)

「世界の映画作家32 イタリア映画史/イギリス映画史」(キネマ旬報社

 イタリアとイギリスの草創期から1970年代までの歴史の把握には最適の1冊。
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