キーストン時代のチャップリンの作品「醜女の深情け」

 金持ちの大女(マリー・ドレスラー)をチャーリーが騙して金を奪う。昔からの相棒のメーベル・ノーマンドと大女の元から逃げ出したチャーリーだが、大女が伯父の遺産を相続することを知り、チャーリーはメーベルの元を去って大女と結婚する。チャーリーとドレスラーはパーティを開くが、結婚に嫉妬したメーベルがメイドに化けて潜入。チャーリーとメーベルがいちゃついているところを、大女が見つけ大乱闘に。最後は、メーベルがチャーリーのひどさからドレスラーの味方をするようになる。

 当時、長くても20分程度だったキーストン映画の中では、異色の1時間以上を費やした長篇。ドレスラーを売り出そうとし、すでにスターだったチャップリンやメーベルと組み合わせて製作された。

 ドレスラーは怪演を見せ(私の妻は男だと思って見ていた)、チャップリンは浮浪者姿ではなくハンサムで胡散臭い詐欺師という「成功争ひ」(1914)で見せたようなキャラクターを出演しているが、ドタバタは抑えられている。

 この作品では、ドレスラーやチャップリンよりもメーベル・ノーマンドの魅力が光っている。ドタバタではなく、この作品のようなストレートな話の方がメーベルのかわいらしさが引き立っているように思える。

 途中、チャーリーとメーベルが映画館で、犯罪者の末路(逮捕)を描いた作品を見るシーンがある(それは、自分たちの行く末を暗示しているように描かれている)。ここでは、当時の映画館がどういうものか少し垣間見ることができる。スクリーンの脇にはピアノが置かれ、演奏者はスクリーンを見ながら(ストーリーの進展を見ながら)曲調を変えて演奏しているように見える。

 1時間を越える長篇として、この作品は成功しているとはいえないように思える。ストーリーの進展は緩慢だ。チャップリンの演技は抑えられているため、パントマイム芸を堪能することはできない。

 ただ、キーストン社で演じてきたチャップリンの役柄の多くが、悪役ともいえるほど金に汚かったり他人の迷惑を顧みないものであったことを考えると、この作品はキーストン社でのチャップリンの総決算的な役柄を多少シリアスに演じているとも言える。後に、もっと頭がよくなり、もっと開き直り、もっと残虐になり、「殺人狂時代」(1947)のベルドゥとしてチャップリンは悪役を復活させることになる。


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