D・W・グリフィスの作品 1914年(3)

「恐ろしき一夜」 

原題「THE AVENGING CONSCIENCE」 製作国アメリ
マジェスティック・モーション・ピクチャー・カンパニー製作 ミューチュアル・フィルム配給
監督・製作・脚本D・W・グリフィス 出演ヘンリー・B・ウォルソール スポティスウッド・エイトケン

 叔父に育てられた青年は、叔父のビジネスを手伝っていた。叔父は青年が女性と付き合い出したことを快く思わず、青年の恋人に失礼なことを言ってしまい、恋人と青年は別れてしまう。そのことを恨みに思った青年は、叔父に殺意を抱くのだった。

 エドガー・アラン・ポーの小説と詩をモチーフにした作品だが、かなり改変されているという。アメリカ映画最初期のホラー映画とも言われるが、最後にはきちんとした理屈が通るようになっている(超自然的な現象を、理屈を通さずにそのまま通すアメリカ映画は「魔人ドラキュラ」(1930)からだと言われる)。

 道徳的価値観を重視したグリフィスらしく、映画は良心の呵責をメインにおいている。その結果として、ホラー的要素も含まれたという印象を受けた。その証拠に、壁に塗り込められた叔父の死体は、同じポー原作の「黒猫」を思わせるものの、結局そのまま放置されてしまい、サスペンスの材料に使われていない。

 グリフィスは様々なジャンルの映画を製作したが、このころになると自らの抱く道徳的価値観に基づいた作品を製作していることが分かる。それは、グリフィスの知名度が上がり、権力が大きくなったことが影響しているのだろう。



アッシリアの遠征(ベッスリアの女王)」

 製作国アメリカ 原題「JUDITH OF BETHULIA」
 バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 原作トマス・ベイリー・アルドリッチ 脚本グレイス・ピアース、フランク・E・ウッズ
 撮影G・W・ビッツァー 編集ジェームズ・スミス 
 出演ブランチェ・スウィート、ヘンリー・B・ウォルソール、メエ・マーシュ、ロバート・ハロンリリアン・ギッシュ

 アッシリア軍に囲まれたベッスリアの人々は、城壁の外にある井戸に水を取りにいけず、飢えと乾きに苦しんでいた。ベッスリアの女王ジュディスは、1人城壁から外へ出て、アッシリア軍の将軍の元へと向かう。

 D・W・グリフィスが始めて製作した長編作品としても、バイオグラフに所属して監督した最後の作品としても知られた作品である。アッシリア軍とベッスリア軍の戦いのシーンは多くのエキストラを使い、製作費がかかっているのが感じられる。だが、最もグリフィスの力を感じるのはラストだろう。ベッスリアを危機から救ったジュディスを、大衆は称える。その人々は画面の奥まで埋め尽くしている。この贅沢なエキストラの使い方と効果が、グリフィスの演出家としての腕前を感じさせる。

 マーシュとハロンが演じる若い男女のロマンスは中途半端だし、ジュディスがアッシリアの将軍に恋をするあたりは付け焼刃な印象を受ける。それでも、長編へのグリフィスの野心はきっちりと1本の作品として結実しているし、グリフィスの監督としての腕前もしっかり刻み込まれている。