「国民の創生」が与えた影響

 「国民の創生」は後の映画に多大な影響を与えるエポック・メイキングな作品となった。

 「国民の創生」は、アメリカ映画の世界覇権のとっかかりとなる作品でもあった。アメリカ映画の世界覇権は、第一次大戦によって、より進んでいくことになる。ジョルジュ・サドゥールは次のように書いている。

 「『国民の創生』は、映画芸術史上では鍵となる映画である。映画産業史上ではそれ以上に鍵となる成功作である。『国民の創生』は、何にもまして、フランスの覇権の崩壊の上に支配を確立した、映画の新しい帝国主義の出現であった」(「世界映画全史」)

 また、映画が労働者階級だけではなく中産階級を取り込むものとなるきっかけともなる作品であった。ロバート・スクラーは次のように書いている。

「主題、形式、値段からして、これはアメリカのエリートの心に訴え、指導者と世論形成者を連帯させ、彼ら自身の文化について何かを語りかけ、また映画についてはその表現の叙事詩的な力と壮大さについて何かをかたりかけるものとなるはずだった」(「アメリカ映画の文化史」)

 そして何よりも、映画は「国民の創生」をきっかけに家内手工業的な(ジョルジュ・メリエス的な)製作方法による産業から、短期間で大金を稼ぎ出す大規模な産業へと変貌を遂げていくことになる。「国民の創生」は時代の変化を決定付ける作品でもあった。これについて、リリアン・ギッシュは次のように語っている。

「当時新しい芸術形態を模索中だった映画は『国民の創生』のおかげで、たちまちのうちに数百万ドルを稼ぐ高収益産業となってしまった。そして映画製作の管理は零細な資本でやりくりしていた監督たちの手からビジネスマンへと移った。映画ビジネスの定式が生まれつつあった。(中略)そのとき私たちにはまだ分らなかったものの、こうしてひとつの時代が幕を閉じたのだった」(「リリアン・ギッシュ自伝」)



アメリカ映画の文化史―映画がつくったアメリカ〈上〉 (講談社学術文庫)

アメリカ映画の文化史―映画がつくったアメリカ〈上〉 (講談社学術文庫)

映画作品のみならず、映画とアメリカ社会全般を幅広く眺めた1冊。検閲という映画に大きく影響を与える事象についても触れられている。

リリアン・ギッシュ自伝―映画とグリフィスと私 (リュミエール叢書)

リリアン・ギッシュ自伝―映画とグリフィスと私 (リュミエール叢書)

D・W・グリフィスの主演女優としても有名なサイレント映画を代表する女優の一人であるリリアン・ギッシュの自伝。グリフィスについての記述がかなり多く、グリフィスを知る上で非常に役に立つ1冊。