キーストン映画の特徴

 キーストン映画は権威への不敬、不条理やバーレスクにより観客を楽しませ、成功を収めた。

 キーストン映画の特徴を「世界映画全史」の中で、ジョルジュ・サドゥールが挙げているものを列挙してみよう。

「(セネットは)大衆の趣味について鋭い感覚を持っていた」

「彼(セネット)のほとんど原始的な魂の中には、平均的な個々の人間と同様に、運命を前にした本能的な恐怖や反骨精神が存在していた。彼は自分と何百万という人々のために、哄笑の野蛮な楽園を創り出した。彼は刑務所での反抗にも等しい調子外れの感情的脱走方法を作り上げたのだ」

「どこにでも姿を見せる警官たちによって象徴される権威は、下層の人々や抑圧された人々に絶えず棍棒で殴られ、人々は笑いこける」

「(セネットの喜劇は)人生の落伍者やならず者の喜劇である」

「優しさの完全な欠如」

「絶望的で憑かれたようなある種の残忍さがセネットに活気を与えている」

 キーストン社の映画は、初期のうちは即興で作られていたが、次第に脚本家集団やギャグを考えるギャグマンを雇うようになる。編集も重視し(マック・セネットは師匠であるD・W・グリフィスからそれを学んでいた)、筋とは関係のない滑稽な断片(赤ん坊がスパゲティの皿に転ぶといったもの。「ビット」と呼んだ)を、作品がつまらない場合は編集で挿入したりもしたが、原則として、喜劇の主要な要素は追っかけだった。

 キーストン社およびマック・セネットは、アメリカの喜劇を率いる中心的な存在であった。ジョルジュ・サドゥールはそんなセネットを高く評価して、次のように書いている。 

 「セネットは、アメリカの喜劇映画全体の長であった、彼のライヴァルたち、あるいは弟子たちは、彼の伝統を追及し、外国の様々な要素を分かちあいながら、彼が創り出したいかにもアメリカ的な合成物を完成させた。アメリカの喜劇映画は、彼によって喜劇映画の流れの本流となり、トーキー映画の出現まで実質的に完全独占をほしいままにすることになったのである」(「世界映画全史」)



(映画本紹介)

無声映画芸術の開花―アメリカ映画の世界制覇〈1〉1914‐1920 (世界映画全史)

無声映画芸術の開花―アメリカ映画の世界制覇〈1〉1914‐1920 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。