セダ・バラの「愚者ありき」

 自らが率いる社名をフォックス社と変更したウィリアム・フォックスは、セダ・バラを「愚者ありき」(1915)で売り出し、大ヒットさせている。

 「愚者ありき」は、ラディヤード・キップリングの詩「吸血鬼」に基づく舞台を映画化した作品である。すでに、「愚者ありき」のタイトルで戯曲化(1906)、小説化(1909)が行われており、話題を呼ぶ題材だった。また、この頃はブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」も注目を集めていた。

 家庭的な外交官が、セダ・バラ演じる女性に誘惑されて、モラルを失っていくという内容で、フロリダでロケ撮影された。演出は舞台的だったが、セダ・バラのエキゾチックなメイク・アップが魔性の女を感じさせ、「キスして、あたいのおバカさん」というセリフはブームになったという。以後、セダ・バラが演じたような吸血鬼(Vampire)のような魔性の女性は、ヴァンプ(Vamp)と呼ばれるようになる。

 以後、セダ・バラは「ロミオとジュリエット」(1916)、「神の娘」(1916)といった作品に、平均月1本ペースで出演していく。週給は、「愚者ありき」のときは75ドルだったが、フォックスをやめるときには4千ドルになっていたという。以後3年にわたり、およそ40本の似たような作品に出演したセダ・バラは、1919年に映画出演をやめた後、舞台へと身を転じている。



(映画本紹介)

無声映画芸術の開花―アメリカ映画の世界制覇〈1〉1914‐1920 (世界映画全史)

無声映画芸術の開花―アメリカ映画の世界制覇〈1〉1914‐1920 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。