セシル・B・デミルの映画製作「カルメン」
「カルメン」(1915)は、舞台でもカルメンを演じたオペラの歌姫ジェラルディン・ファーラーが出演した作品として注目を集めた。2万ドルの出演料、ハリウッド滞在費の全額負担、アメリカを横断する貸切車両の準備などファーラーは厚遇を受けて撮影された。組み立てられたセットを使用し、サイレント映画だったが、俳優たちは舞台と同じようにセリフを喋って撮影されたという。
デミルは、「カルメン」の撮影と公開にあたってちょっとした工夫を凝らしている。先に「マリア・ローザ」(1915、共演ウォーレス・リード)という作品を撮影し、ファーラーに映画撮影に慣れさせた後で「カルメン」を撮影したが、公開に際しては「カルメン」を先にしたのだった。世間の耳目を集めた「カルメン」は失敗作にするわけにはいかなかった。一方、「カルメン」でファーラーがスターになった後ならば、「マリア・ローザ」の演技が多少ぎこちなくても、観客に受け入れられるだろうという計算がそこにはあった。
デミルのいい意味での計算高さが感じられるエピソードだ。
また、デミルは「誘惑」(1915)というファーラー主演作も監督している。
デミルはヒット演劇を映画化していた。著名な演劇人だったデイヴィッド・ベラスコの作品を10作品10万ドルと利益の半分で買い取ったりもした。10作品のうち、「神々の寵児」という日本劇以外はすべて映画化されている。
ヒット演劇の映画化がヒットしなくなるとリサーチ部門を設け、通俗小説や実話から脚本を製作するようになった。ジェニー・マクファーソンを中心とする専属作家を側近に置き、兄のウィリアムも顧問格として活躍してもらった。また、男優と女優の組み合わせにも苦心し、たえず新鮮な顔ぶれで映画を製作するようにした。また、特殊技術部、編集部を独立した部門として扱った最初の人物とも言われる。
一方でデミルの現場の監督ぶりは、軍隊のボスのように権力を振りかざすとして批判する人もいたという。
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