連続映画熱

 前年(1914年)に、「ポーリン」(1914)などによって高まった連続映画熱は、アメリカではまだ続いていた。30エピソードからなる「金剛星」(1915)が製作されたり、トラストを批判した「グラフト」(1915)という連続映画作品がユニヴァーサルで製作されたりした。また、ジョン・フォードの兄であるフランシス・フォードは、ある王国の財宝の隠し場所が刻まれたコインをめぐる争奪戦が描かれる「名金」を全22篇で監督・主演し、日本でも大ヒットした。

 この頃、連続映画に関わった人が続いて死去し、連続映画に関わると災難が訪れるという迷信が生まれている。一方で、数年間続いた連続映画熱に対して低俗であるという批判が起こったという。

 連続映画熱はアメリカからフランスへも飛び火した。「ポーリン」に主演したパール・ホワイトは、「ル・マタン」紙に小説として連載され、フランスで人気を得た「拳骨」(1915)に主演している。

 「拳骨」は、パール・ホワイト演じるエレインが、科学探偵のクレイグ・ケネディの協力を得て父親を殺した犯人を捜査するという内容だった。殺人光線や毒針を仕込んだ腕時計などSF的趣向に満ちていた。アメリカ的な要素(スポーツや楽観主義、アクション、成功に基づくアメリカ的ヒロイズム、エキゾチズム)が持ち込まれ、戦中のフランス大衆にアメリカ趣味を見せ付けたという。「拳骨」はパテ社のアメリカ支社の作品であり、フランス人のルイ・ガスニエが監督を務めた。パテ社は「拳骨」の成功によって、当時陥っていた破綻的な財政状況を立て直している。

 「ドラルー(ヴァンパイア、吸血ギャング団)」(1915−16)は、ゴーモン社のルイ・フイヤードによって監督された作品で、20ほどのエピソードによって成立していた。絵入り雑誌の連載と結びついていた。出演していた女優のミュジドラがセックスアピールを発散し、人気を得た。犯罪人たちのグループが黒装束を身に着けて、大罪を犯すという内容に、犯罪を増やすものとして批判されたりもした。



(映画本紹介)

アメリカ映画の文化史―映画がつくったアメリカ〈上〉 (講談社学術文庫)

アメリカ映画の文化史―映画がつくったアメリカ〈上〉 (講談社学術文庫)

映画作品のみならず、映画とアメリカ社会全般を幅広く眺めた1冊。検閲という映画に大きく影響を与える事象についても触れられている。