映画評「カルメン」
ジェシー・L・ラスキー・フィーチャー・プレイ製作 フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー配給
製作・監督・編集セシル・B・デミル 出演ジェラルディン・ファーラー
デミル自身が保有していたというフィルムを元に、デミルが残した指示書どおりに着色し、当時の映画館に配布された伴奏音楽の楽譜に基づいた音楽をつけたものをDVDで見る。
ジェラルディン・ファーラーは当時の有名なオペラ歌手であり、オペラでもカルメン役を演じた人物だという。そんな人物を主演に据えたことが、映画の話題づくり上有効だったことは間違いない。ファーラーは舞台と映画の両方で成功した当時としては稀有な人物だったという。この映画のファーラーを見ると、少し年齢を重ねすぎている感がぬぐえず、また演技も少しオーバー過ぎるように感じ、どんな男性でも虜にする魅力を私はあまり感じることができなかった。だが、騎兵のホセにつきまとわれ始めてから、「私は誰のものでもない」という自由さ、傲慢さを演じる段になると、俄然魅力を増し、オーバーな演技も熱き血を感じさせるものに感じられた。
この映画はサイレントであるため、もちろんファーラーの歌声を聞くことはできない。だが、もともとがオペラではなく、劇映画として作られているため、そのことは何らマイナスにはなっていない。デミルの演出は堅実な一方で、面白みがないとも言えるが、タバコ工場でのカルメンと女工のケンカシーンの混沌から、ホセが仲間の騎兵を殺してしまうまでの狂騒は見事だ。カルメンがホセを誘惑するそれまでのシーンがゆったりとしているため、急速なテンポの変化はアクセントとして機能しているように思える。また、ラストでホセがカルメンを刺し殺してしまうシーンでは、2人以外の舞台装置をなるべく排除し、2人だけの世界を構築することに成功している。痴情のもつれの殺人が、2人だけの世界以外が見えなくなってしまうことが原因の1つといえることを考えると、この演出は適切だ。
デミルといえば、後の歴史大作を中心に語られるが、この作品や「男性と女性」(1919)を見ると、じっくりとした作品でも力を発揮することがわかる。
- 出版社/メーカー: アイ・ヴィー・シー
- 発売日: 2004/03/25
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