映画評「REGENERATION」

 フォックス・フィルム製作・配給 監督ラオール・ウォルシュ

 ギャングのリーダーであるオーウェンは、ソーシャル・ワーカーのマリーの力によって更生への道を進む。そんなある日、オーウェンに代わってリーダーになったスキニーは警官を刺してオーウェンにかくまってもらうように頼む。オーウェンはかくまうが、そのことをマリーに知られたオーウェンは恥じて、去っていく。マリーはオーウェンを追ってギャングのアジトへ向かうが、マリーはスキニーに捕まってしまう。助けにアジトに向かうオーウェンに、警官も加わってギャングのアジトは大乱闘となる。

 この後、アメリカを代表する監督の1人となるラオール・ウォルシュによる作品である。ギャングを扱った初の長編映画とも言われている。

 ウォルシュといえば、D・W・グリフィスの元で働き、この作品と同じ年に公開されてアメリカ全土に大きな話題を呼んだ「国民の創生」(1915)の助監督としても働いていた。ギャングの一員が1人の女性の愛によって更生しようとするという教訓的なこの作品の内容は、非常にグリフィス的でもある。ただし、70分強の長編であるこの作品は、単純に「1人の男性の更生の物語」とはなっておらず、「1人の男性が更生しようとするが、なかなかうまくいかない物語」となっている。このタイプの物語はこの後も、アラン・ドロンジャン・ギャバンが共演した「暗黒街のふたり」(1973)やアル・パチーノ主演の「カリートの道」(1993)にもつながっていくものだ。

 ギャングを扱った初の長編映画といわれるが、この作品はギャングの抗争を扱ったものではない。物語の焦点は、ギャングが行っている「悪いこと」にあるのではなく、「悪いこと」から足を洗おうとする点にある。しかも、足を洗おうとするのは1人の愛する女性の力を借りてであり、非常にメロドラマ的でもある。

 この作品は、ニューヨークの下町で実際にロケされて撮影されているという。また、登場人物たちのなかには実際のギャングもいるのだという。そのためもあって、街の雰囲気がよく伝わってくる。主人公のオーウェンは、字幕で「ギャングのリーダー」と紹介されるが、実際にどんなことを行っているのかはほとんど描かれない。描かれるのは、ビールを飲むことと博打をしていることくらいだ。このことは、オーウェンの「ギャングのリーダー」という設定の説得力を減じているが、街の雰囲気によって救われているようにも思える。

 ウォルシュの演出は堅実で、後半では師匠のグリフィス譲りともいえるカットバックを使ったヒロインの救出劇も見せてくれる。この救出劇はスピーディでしつこくなく、この映画最大の見所となっている。

 特筆すべきはラストだろう。オーウェンを助けようとしたマリーは大乱闘に巻き込まれて銃弾を受けて死んでしまうのだ。この悲しいラストは、まるでマリーがキリストのような殉教者のように描かれているものの、この後のハリウッド映画におけるハッピー・エンドに見慣れた眼からすると、驚きだった。

 サイレント映画の作品には悲劇的な終わりを迎える作品が少なくない。ハリウッド映画はなぜ、ハッピー・エンドを指向するようになったのかについては、もっと考えてみる必要があるだろう。

Regeneration [VHS] [Import]

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