エッサネイ時代のチャップリンの作品「チャップリンの掃除番」
銀行の掃除番のチャーリーは、行員のエドナに恋をしている。当のエドナは出納係のチャールズに恋しておりプレゼントを贈るが、チャーリーは自分宛だと思い喜ぶ。勘違いに気づいたチャーリーだが、強盗に入り人質となったエドナを助けて、自分のものとするが、それは夢だった。
エッサネイ時代のチャップリン作品の中では最高傑作だと私は思う。哀愁といい、落ちのつけ方といい、文句なしだ。夢オチは場合によっては怒り心頭にさせられることもあり、最悪のオチとなることもあるが、この作品はそうなっていない。その理由の1つは、眠りから醒めたところが夢の中で描かれているからだろう。目覚める夢を見たことがある人ならばわかると思うが、目覚める夢は実際に眼が覚めたときでも、本当に目覚めたのかがわからなくなるのだ。また、夢の役割が、夢の内容を楽しませるものではなく、チャーリーのせつない思いを見るものに感じさせるものであるということもある。
ギャグも冴えている。回転ドアを2周して銀行に入ってくるが表情1つ変えないチャーリー(このあたりの無表情のおもしろさはバスター・キートンにも通じるものがある)。体調を心配しているフリをして舌を出させ、切手を濡らして手紙に貼るギャグ。殴り合いになった相手に「やるなら上着を脱ぐからちょっと持ってて」とばかりに、自然に相手に上着を持たせて両手がふさがったところをパンチ。キーストン社時代の泥臭いドタバタから後年のチャップリン映画につながるギャグへの転換が見て取れる。
何よりも素晴らしいギャグは、何重にもかけられたロックをはずし、重々しく巨大な金庫の扉を開くとそこには掃除道具が入っているというもの。銀行に入ってきた時から比較的長い時間をかけられたギャグはチャップリン映画の中ではまだ珍しい。映画草創期であれば、これだけで一本の映画となりえる内容となっている。
金庫のギャグはセットも一役買っている。といっても、金庫の扉は木材で出来ていることが断面からわかってしまうのだが。それでも、今までのチャップリン映画にはないギャグのための大掛かりなセットであることに違いはない。チャップリンとセットというと、「モダン・タイムス」(1936)の工場のセットが最も記憶に残っているが、この頃からチャップリンはギャグのためのセットに乗り出していることがわかる。
爆笑を誘う映画ではない。しかし、チャップリンのすごさの片鱗が、すでに人気を得ていたチャップリンがより高い人気誇っていく理由がこの作品には見え隠れしている。
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