デンマーク映画 クリステンセンの活躍

 第一次大戦の影響により、ドイツ以外の外国の顧客を失ったデンマーク映画は、ホルガー=マッセンによる「永遠の平和」(1916)といったトマス・H・インスの「シヴィリゼーション」(1916)の影響を受けた平和を歌った映画がノーディスク社によって作られた。また、同時期のデンマークでは「羅者の熱涙」(1916)といった探偵映画が大きな地位を占めていたが、かつての栄光を失いつつあった。

 後に「魔女」(1922)を監督するベンヤミン・クリステンセンは、「復讐の夜」(1916)を監督している。無実の罪で服役していた男が、自分を裏切ったと誤解している女性に復讐しようとするという内容の作品である。異例の8ヶ月をかけて製作され、興行・批評両面で成功を収めたという。

 「復讐の夜」について、あるエピソードがある。アメリカの検閲局は、ニューヨークの名士たちを招いて「復讐の夜」の試写会を開催した。そこに参加していた刑務所改革を進めていた人物の提案で、シン・シン刑務所の囚人に映画が見せられることになった。そして、シン・シン刑務所を訪れたクリステンセンは、「悪とは何か」という問題を考えるようになり、それが後の「魔女」(1922)にもつながったという。

無声映画芸術の開花―アメリカ映画の世界制覇〈2〉1914‐1920 (世界映画全史)

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