ウィリアム・S・ハート出演作品「HELL'S HINGES(地獄の迎火)」

 監督・主演ウィリアム・S・ハート 製作トマス・H・インス

 若い聖職者は西部の田舎町に布教のために派遣される。しかし、そこは荒くれどもが支配する町だった。荒くれどもの1人のブレイズは、聖職者の妹に心を打たれて改心する。一方で他の荒くれどもは、聖職者を誘惑して堕落させ、教会を焼き討ちにしてしまう。

 トマス・H・インスはハリウッドにプロデューサー・システムを導入した人物として有名だが、一方で西部劇を復活させた人物でもあるという。1900年代に1巻物(約15分)の西部劇が流行ったが、同じパターンの繰り返しに飽きられてしまっていた。ウィリアム・S・ハートという人物を見出し、さらに長篇にして人物に複雑さを持ち込むことで、インスはそんな西部劇というジャンルの復活に成功したのだ。

 ハートが演じた役柄は「グッド・バッド・マン(良い悪人)」と言われるもので、もともとは荒くれ者だった男が何らかの事情で良い人になるという内容の作品が多いらしい。この作品も、その系統の作品といえる。

 ハート演じるブレイズは、聖職者の妹の魅力にあっという間にやられてしまい、すぐに改心してしまう。そこにはドラマはない。また、聖職者は荒くれどもの仲間である女性にあっさりと誘惑されて、あっさりと酒びたりとなって狂人のようになってしまう。ここにもまたドラマはない。重々しい(説教くさい)字幕と比べて、ストーリーはかなり軽い。いや、ストーリー自体は重いのだが、ドラマがないために軽くなってしまっている。

 しかし、だからといってつまらない作品ではない。荒くれどもが教会を焼き討ちにし、ハート演じるブレイズがぶち切れた後は画面にみなぎる迫力が素晴らしい。恐ろしい勢いで燃え盛る教会をバックに、酒場にいる荒くれどもたちの元へ決然とした表情で向かうブレイズを真正面から捉えたショットの素晴らしさは、ハート映画ならではの魅力だ。

 この作品のドラマは軽い。しかし、しっかりとした見せ場のある作品だ。

 また、この作品は西部劇に分類されるのだろう。しかし、軽いとはいえドラマを志向しているこの作品を見ていると、この後にジャンル化される西部劇(ネイティブ・アメリカンの襲来など)とは異なる印象を受ける。ドラマの深さは異なるが、クリント・イーストウッドの「許されざる者」(1992)を思い起こさせる作品でもある。

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