映画評「THE AMERICANO」

 製作国アメリ
 ファイン・アーツ・フィルム・カンパニー製作
 トライアングル・ディストリビューティング・コーポレーション配給
 監督・脚本ジョン・エマーソン 脚本アニタ・ルース 出演ダグラス・フェアバンクス

 中米の小国パラゴニアとアメリカの採掘企業との提携が決まり、アメリカからエンジニアがパラゴニアに派遣される。だが、パラゴニアでは革命が起こって、陸軍大臣が大統領に代わって実権を握っていた。大統領の娘に恋したこともあり、エンジニアは大統領救出に乗り出す。

 アクションやコメディ的要素が少ない作品である。ユーモアでさえ、控えめである。そんなこの作品を特徴づけているのは、「アメリカ」という存在だろう。ダグラス・フェアバンクス演じるアメリカ人エンジニアには名前はない。「アメリカ人」として紹介されている。それは、まるで全米代表としてパラゴニアに乗り込んでいるかのようだ。パラゴニアには採掘をする技術はなく、アメリカ企業の手を借りなければならない。加えて、国内で起こった革命騒ぎまでも、1人のアメリカ人の手によって解決される。当時のフェアバンクスは、後のハロルド・ロイド作品のような「普通のアメリカ人」によるコメディに多く出演していた。だが、この作品は違う。「普通のアメリカ人」ではなく、「全米代表のアメリカ人」を演じている。

 フェアバンクス演じるエンジニアが手を貸さなければ採掘は再開できず、人々は職にあぶれてしまう。多く集まった大衆が、「アメリカ人!アメリカ人!」と叫ぶシーンは象徴的だ。フェアバンクスはここでは、全米代表から救世主のような高みへと上っている。

 この作品の監督はジョン・エマーソン、脚本はエマーソンとアニタ・ルースだ。エマーソンとルースは、アメリカ的な伝統に根ざしたユーモアを持った作品を世に送り出したと言われる。この作品では、1人のアメリカ人が1つの国を動かしてしまうという、普通ではありえない話を描き出している。

 この作品のアメリカ色の強さを鼻につくと感じるか、むしろ爽快に感じるかは人それぞれだろう。だが、多くのアメリカ人にとっては、心地よく感じたことだろう。そして、フェアバンクスも。フェアバンクスは、この後自身のプロダクションを設立する。独立後もエマーソンとルースに仕事を頼んだことからも、フェアバンクスが2人を信用していたことが分かるというものだ。