ミューチュアル時代のチャップリンの作品「チャップリンの勇敢」
原題Easy Street 製作国アメリカ
ローン・スター・コーポレーション製作 ミューチュアル・フィルム・コーポレーション配給
製作・監督・脚本・編集・出演チャールズ・チャップリン 出演エドナ・パーヴィアンス
教会で説教を聞き、真っ当に生きることを決意したチャーリーは、警官となる。1人のとっても強い暴れん坊が警官すら暴力で排除する「イージー・ストリート(原題)」に派遣されたチャーリーは、暴れん坊をやっつけて、町に平和を取り戻す。
ヒーローものである。悪のはびこる街に1人のヒーローがやってきて、平和を取り戻す。そのあまりにも安易過ぎるラストに、どこか違和感を感じる。この違和感は、映画としての出来が悪いとかではなくて、どこかすっきりいかない違和感だ。
サドゥールがこの映画をグリフィス流の愛と平和の物語を皮肉っているという内容のことを書いていたが、そう思わせる意地の悪さのようなものが「勇敢」には染み付いている。その最大のものは、ヒーローであるチャーリーを怖れる街の人々の様子だ。街の人々はチャーリーが「強い」から怖れてチャーリーが望む平和な世界に住んでいるかのようだ。力に対して力で得た平和。結局、平和は誰かの平和でしかないとでも言いたいかのようなラストにすっきりいかない違和感を感じたのだろう。
ギャグはあまり多くない。純粋なギャグは、冒頭のこぼれたミルクを赤ちゃんの小便と勘違いするところくらいだろう。途中の暴れん坊をガス灯のガスでやっつけるシーンは、ギャグというよりも戦いである。
ドタバタが素晴らしい。警察署で暴れん坊が警官たちをなぎ倒すシーンでは、ただやり合っているように見えて、途中で投げ飛ばされる警官の人形をさりげなく警官の1人がセッティングしている。ラストのチャーリーと町の人々との乱闘も、柔道のような投げを見せたりと殺陣のようにしっかりと振り付けがされている。
しかし、何よりもこの作品の最大の魅力はセットだろう。右と左と正面に建物が建ち、T字路型になっているセットはスラムの貧しさがこびりついているようだ。しかも、奥行きがさえぎられているので経済的でありながらも、リアリティがある。ロンドンのスラムで幼い頃を過ごしたというチャップリンの面目躍如である。
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