メアリー・ピックフォード主演作「THE LITTLE AMERICAN(小米国人)」

 
 エルボグラフ社、メアリー・ピックフォード社製作アートクラフト・ピクチャーズ配給
 製作・脚本・監督セシル・B・デミル 製作・主演メアリー・ピックフォード

 若い女性アンジェラはドイツ系アメリカ人のカールに恋をしている。そんな中、第一次大戦が勃発。カールはヨーロッパ戦線に出征する。フランスの叔母の元へやって来たアンジェラの元に、ドイツ軍がやって来る。野蛮な振る舞いをするドイツ兵たちの中には、カールの姿もあった。

 この映画が公開された1917年はアメリカが第一次大戦に参戦した年である。しかも、この映画が製作されたのは1917年の4月17日からと言われており、アメリカが宣戦布告をしたのが4月6日であると考えると、見事なまでのタイミングの良さで製作されている(公開は1917年8月)。機を見るに敏とはこのことかと感心する。

 主人公のアメリカ人女性のアンジェラは、フランスでカールと再会する。カールはアンジェラと再会することで、軍隊生活で荒んでいた気持ちから解放される。カールはフランス軍の捕虜になるが、最終的には愛するアンジェラと共にアメリカへと渡ることを許される。

 また、アンジェラはフランス軍に味方して、ドイツ兵の配置場所を秘かに電話でフランス軍に連絡する。そのことをドイツ軍の士官に責められたアンジェラは「私は中立でした。あなたの兵士たちが女性を破壊し、老いた男性を撃ち殺すまではね。そのとき私は中立をやめて、人間となったのよ!」と言う。

 当時国民的スターであったメアリー・ピックフォードを、アメリカ人の代表としてヨーロッパに送り、アメリカ人としての態度を示した映画という印象を受ける。それは、アメリカ人は決して好戦的に第一次大戦に参戦したのではなく、ドイツ軍の蛮行によってやむを得ず参戦するのだという態度である。アメリカは1914年に第一次大戦が始まってから、中立の立場を取っていた。その態度を反映しているように思える。なので、「人間」であるドイツ兵カールに対しては、暖かい視線が送られている。

 この映画は愛国主義的な作品ではあるが、決して好戦的な作品ではない。だが、愛国主義的であるために、ドイツ兵は過剰に粗野で野卑で残虐に描かれる。ドイツ兵は酒飲みで、大食で、好色だ。はっきりとは描かれないが、フランス人の女性のメイドがレイプされたことも、髪がボサボサになり呆然とした表情を浮かべていることで表現されている(先に挙げたアンジェラが「女性を破壊」と言ったのは、レイプのことである)。

 ピックフォードはトレードマークの少女役ではなく、成熟した若い女性としての役柄をこなしている。愛国主義的であることは否定できないが、最後までメロドラマに徹していることで、あくまでも娯楽作であるという立場に立っている。

 デミルの演出はスムーズだ。映画の後半で、傷ついたアンジェラとカールが磔にされたキリスト像が掲げられた壊れた教会の壁の下に座り込む。すると近くに爆弾が落ち、教会の壁が崩れ落ちるも、キリスト像だけは残るというデミルの演出は見事だ。どんな戦争でも神を殺すことも、神に守られた人間を殺すこともできないというデミル流のメッセージは、見事に表現されている。

 この映画は、第一次大戦に対するアメリカの、そしてデミルやピックフォードの考え方がよく伝わってくる作品のように思える。ドイツ兵を殺したくて、参戦するのではない。非人間的なドイツ兵と戦わなければならないから参戦するのだという考え方が。その一方でデミルは、ドイツ兵をしっかりと悪く描くことで、反戦映画とも作っていない。さらに、アンジェラがドイツ兵のカールではなく、フランス兵と結ばれるというラストも撮影されていたらしく、デミルの抜け目のない立ち回りぶりを感じることも出来る。