エフゲーニ・パウエル監督作「DYING SWAN」

 製作国ロシア ハンジョンコフ社製作 監督エフゲーニ・パウエル

 口を利くことができないジゼラはヴィクトルという男性と親しくなるが、ヴィクトルに別の恋人がいることを知り去っていく。やがて、「死に行く白鳥」を得意とする有名なバレリーナとなったジゼラの元に、死を絵に表現したいという画家がモデルになるように依頼してくる。引き受けるジゼラ。そんなある日、ジゼラはヴィクトルと再会し、2人はもう1度やり直すことにするが、画家は幸せになったジゼラから「死」が感じられないことに気づく。

 エドガー・アラン・ポーの小説にも似たような作品があるという。死に捉われた画家という存在が大きい。画家の存在によって、口を利けない女性が主人公の甘いラブ・ロマンスとはかけ離れた存在に映画を変化させている。

 エフゲーニ・バウエルの作品は、どこかこの世のものとは離れたおどろおどろしい雰囲気を持っている。そして、バウエルの演出もそういった雰囲気を醸造しようとする際に実力を発揮する。「AFTER DEATH」(1915)がおどろおどろしい雰囲気の素晴らしさを感じるには最高の作品だが、この作品でもジゼラが悪夢を見るシーンでは前後の移動撮影とフィルム全体の染色によって、映画を現実の世界から別の世界に一瞬にして変化させるかのような演出を見せてくれる。

 エフゲーニ・バウエルの作品を見ていると、当時の他の国の作品にはない独特の暗さが感じられる。単純なホラー映画とも異なるねちっこい暗さといえばいいだろうか。クタっとなった「死に行く白鳥」の造形だけでも、暗さを感じはしないだろうか?そして、この「死に行く白鳥」が演技ではなくなったとき、映画は終わりを迎えるのだが、それはまるで映画の中の画家が「死」を求めたように、エフゲーニ・バウエルも「死」を求めていたようなそんな感覚を覚えてしまった。バウエルの暗さはねちっこくまとわりつくようだ。