チャールズ・チャップリン作品「犬の生活」
原題「A DOG'S LIFE」 製作国アメリカ
ファースト・ナショナル・ピクチャーズ製作・配給
製作・監督・脚本・編集チャールズ・チャップリン 出演エドナ・パーヴィアンス
「犬の生活」は、チャールズ・チャップリンがファースト・ナショナル社で初めて監督した作品である。内容は、ミューチュアル社時代までに作られた浮浪者チャーリーの物語の延長線上にある。内容的には決して新しくはない。だが、内容もギャグも非常に濃くなっている。
ちなみに、この作品はチャップリンが出演した最初の3巻の作品ではない。キーストン時代の「醜女の深情け」(1914)や、エッサネイ時代の「チャップリンのカルメン」(1916)は3巻以上あった。
チャップリンが演じるのは浮浪者。職がなく、金もない。警官には追いかけられ、仕事を探しても他人に出し抜かれる弱者だ。大きな犬にいじめられている犬(チャーリー自身の境遇をもちろん重ね合わせているだろう)を可愛がるようになったチャーリーは、酒場でエドナという女性と出会う。強盗が紳士から盗んだ財布をたまたま見つけたチャーリーは、泥棒との奪い合いを制して、エドナと田舎で幸せに暮らすのだった。
これまでのチャーリー像の延長線上にある「犬の生活」は、エッサネイ時代の秀作「チャップリンの拳闘」(1915)と似ている。「拳闘」では、チャーリーは1匹のブルドッグを飼っており、金のためにボクシングの試合に出ることになるのだ。犬とチャーリーの心が通い合う思いという点では、「拳闘」の方が強いかもしれない。「拳闘」では、ブルドッグがチャーリーの試合中にリングに入り込み、対戦相手に噛み付くのだ。それは、まるで愛するチャーリーが殴られるところを見ていられないかのようだった。「犬の生活」の犬は、財布を見つけてチャーリーに幸福を与えることになるが、それは単なる偶然である。
チャップリンは、チャーリーとかわいそうな犬の間にある共通点を見せてはいるが、それは発展していない。「犬の生活」は、チャップリン映画の代名詞である「ペーソス(哀愁)」よりも、ギャグ映画として今でも見るに足る作品となっていると思う。
「犬の生活」のギャグの中で、最もよく指摘されるのは、チャップリンがテーブルで飲む2人組の強盗の1人を気絶させ、二人羽織の要領で相手から金を手に入れるパントマイムだ。そのほかにも優れたギャグが満載だ。私のお気に入りは、ステージでエドナが唄を歌い出すと、あまりに哀しい唄にみんなが泣き出してしまうギャグだ。その哀しさは、バーテンの心が洗われて、くすねたお金をレジに戻してしまうほどなのだ。字幕で説明されないこのギャグは見逃されがちだが、素晴らしいと私は思う。
チャップリンが、自分の作りたいように、自分の信頼する仲間たちと、時間をかけて撮影された「犬の生活」は、内容はかつてのチャップリン映画とさほど変化はないが、ギャグは念入りに作り上げられている。数々のギャグの絶妙なタイミングがそれを物語っている。
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