チャールズ・チャップリン作品「担え銃」

原題「SHOULDER ARMS」 製作国アメリ
チャールズ・チャップリン・プロデクションズ製作 ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
製作・監督・脚本・編集チャールズ・チャップリン 出演エドナ・パーヴィアンス

 「担え銃」は、ファースト・ナショナル社に移籍したチャップリンの第2作目となる作品である。この年のチャップリンは「犬の生活」と「担え銃」の2本しか製作していない。このことは、ファースト・ナショナル社としては、不満だったようだ。当時のチャップリンの人気から言って、ミューチュアル社のときのように2巻ものの短編コメディを量産してくれる方が、1年に2本しか中篇を作ってくれないよりは儲かることが明確だったからだ。

 しかも、「担え銃」は、当時まだ進行中だった第一次大戦を扱ったコメディである(公開後まもなく、休戦となる)。アメリカでも戦死者がいる戦争を笑いものにした作品は、興行的にかなりリスクを伴うものだった。同じ年にD・W・グリフィスは「世界の心」(1918)をイギリス政府の協力を得て製作しているが、「世界の心」は戦争を扱ったシリアスなドラマだ。笑いものにはしていない。


 映画は素晴らしい。ギャグの洪水は、そのどれもが一級品だ。チャップリン映画のギャグの密度としては、「担え銃」が一番なのではないだろうか?ギャグの種類も豊富だ。水に漬かった塹壕の中で、蓄音機のラッパ部分を口にくわえて「すいとんの術」のように眠るといった視覚的なギャグ。家族から手紙の来なかったチャーリーが、仲間の手紙を後ろから盗み見して、仲間と同じように表情を曇らせたり、安堵したりするという至芸ともいえる細かいギャグ。ライフルで1人撃ち殺すごとに、黒板に棒を書いていくが、1人撃ち返して来た敵がいて、あわてて黒板の棒を1つ消すという残酷なギャグ。大人数の敵を1人で捕まえたチャーリーに、上官が「どうやって捕まえたんだ」と聞き、チャーリーが「包囲したんです」と答えるナンセンスギャグ。溢れんばかりのギャグが映画を覆い尽くしている。

 ギャグの中で最も素晴らしいのは、チャーリーが木になりすまして敵の陣地に侵入するギャグだ。このギャグはモノクロならではのものだ。カラーではどうやっても、うそ臭く見えてしまう。森の中で木になりすましたチャーリーを、動き出す前から見抜ける人物はまれだろう。それくらい、よくできている。

 このギャグの洪水が、「担え銃」を支えている。戦争を風刺しているとか、逆に戦争に協力しているとか、そういったことなどどうでもよくなってしまうくらいのギャグの洪水がここにはある。作品の出来に自信がなかったチャップリンが、友人だったダグラス・フェアバンクスに見せたところ、フェアバンクスは笑い通しだったという話が残っている。そう、それがすべてなのだ。この映画はおもしろくて、おもしろくて、ただひたすらおもしろくて仕方がない作品なのだ。

 加えて素晴らしいのは、セットだ。塹壕のセットに、エドナが住む壊れた家のセット。これらのセットが、映画にリアリティを与えている。

 また、「担え銃」では、チャップリンにしては珍しく、二重写しが使われている。塹壕にいるチャーリーが、ニューヨークを思い出すシーンがそれだ。

 映画は会社側の懸念はどこ吹く風で、大ヒットした。「担え銃」のおもしろさの前には、戦争をバカにしていることなどは些細な問題だったということだろう。
 

 チャップリンが最初に完成させたバージョンはもう少し長かったらしい。冒頭に、家族との生活や兵役検査を受けるチャーリーのシーンがあった。ファースト・ナショナル社は長尺を望んでおらず、カットされたといわれている。また、ドイツの皇帝だけではなく、チャーリーが各国の元首を捕まえるというシーンの撮影も検討されたという。

 ちなみに、カットされたシーンはDVD「ビバ!チャップリン」の映像特典として見ることが出来る。子供3人を連れて歩くチャーリーが躓くと、チャーリーとともに3人の子供たちが何に躓いたかと振り向く。そのタイミングが絶妙におかしい。兵役検査のシーンでは、医者とチャーリーの様子がガラスの扉を挟んで影で表現される。チャーリーが医者の検査器具を飲み込んでしまい、医者が糸で引っ張り出すという、影を上手く使ったギャグを見せてくれる。

 これらのシーンはとても面白いが、確かに兵士になった後のチャーリーに焦点を絞った今の状態の方が引き締まっていいかもしれない。また、チャーリーに子供がいることがわかることで、映画は戦争の悲しみの色を加えていたかもしれない。それはそれとして、今私たちが見ることができる「担え銃」は、抜群におもしろい作品である。それだけは間違いない。