メアリー・ピックフォード出演作「闇に住む女」

 原題「STELLA MARIS」 製作国アメリ
 ピックフォード・フィルム製作 アートクラフト・ピクチャーズ配給
 監督マーシャル・ニーラン 脚本フランシス・マリオン 出演メアリー・ピックフォード

 ステラは麻痺を患い歩けない少女、ユニティは孤児として育ち引き取られた先では虐待にあっていた。中年男性のジョンはステラの後見人的な役割であり、ユニティの雇い主でもあった。ステラもユニティもジョンに憧れ、恋をするようになる。

 正直言って驚いた。映画を見終わって、インターネットで調べるまで分からなかった。何がって、ステラとユニティがメアリー・ピックフォードの一人二役だったことにである。映画の序盤はほとんどユニティしか出てこないため、おかしいなとは思ったのだが、気づかなかった。ピックフォードが一人二役を演じるのは、決して珍しいことではない。しかし、この作品くらい全く正反対と言っていいほど見た目が異なるキャラクターを演じるのを見るのは初めてだ。

 ピックフォードの一人二役からも気合が伝わってくるこの作品は、野心的な作品と言える。例えば、映画の序盤でユニティがアルコール中毒の女性から虐待を受けるシーンの凄惨さ。リリアン・ギッシュ主演、D・W・グリフィス監督の「散り行く花」(1919)より早く、この作品は虐待の痛々しさを見事に描いている。苦いラストもまた、ピックフォード作品らしからぬ面を持っている。

 凄惨だったり、苦かったりといった部分が、ピックフォードが特殊メイクを施したユニティに負わされている面は見逃してはならないだろう。人々が親しんでいるピックフォードはあくまでも、これまでのピックフォードである。スターのイメージを壊すことなく、野心作に取り組んでいるのだ。このしたたかさがまた、ピックフォードがスターになったゆえんの1つかもしれない。

 メアリー・ピックフォードは、大衆が望む少女役からの脱皮ができないまま、役者としてのキャリアを終えたと言われる。しかし、果たしてそうなのだろうか?私はこの作品で、巻き毛の金髪の少女役ではないピックフォードの見事な演技を見た。それは、映画を見終えるまで気づかないほどのものだった。映画が作られてから90年以上経ち、すでにピックフォードはこの世を去った。それでも、私たちは「ピックフォードはこういう役者でした」という簡単な説明以上のものを見ることが出来る。それが、映画というものだ。もし、ピックフォードが舞台役者だったら、私たちは通説以外の感想を持つことは難しいことだろう。

Stella Maris [VHS] [Import]

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