「鬼火ロウドン」 ウィリアム・S・ハート監督・出演作

 原題「BLUE BLAZES RAWDEN」 製作国アメリ
 アートクラフト・ピクチャーズ・コーポレーション、ウィリアム・S・ハート・プロダクションズ製作
 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督・出演ウィリアム・S・ハート

 「鬼火ロウドン」は、ウィリアム・S・ハートの監督・出演作である。ハートは映画草創期の西部劇で人気を博した人物だが、その出演作は日本ではほとんど見られない。その意味でもこの作品は貴重であるといえる。

 ハートは「グッド・バッド・マン」と呼ばれる役柄で人気を得た。「いい悪い奴」という、矛盾した概念が結びついたキャラクターだが、「鬼火ロウドン」でも、得意の「グッド・バッド・マン」ぶりを見ることができる。

 舞台は、北(おそらくカナダ)の森の中にある小さな街。そこに荒くれで知られる木こりである「鬼火」ロウドンがやってくる。ロウドンは街の飲み屋の主人と決闘して主人を殺し、自分が主人となる。そんなロウドンの元に、自分が殺した飲み屋の主人の母親と弟がやってくる。罪意識もあり、母親らに優しくするロウドン。だが、前の主人の弟が真相を知り、ロウドンにピストルを撃つ。ロウドンは、傷ついた身体で吹雪の森の中へ消えていくのだった。

 ストーリーはわかりやすく、単純だ。ありがちといってもいいし、ひねりがないといってもいい。しかし、その分見る側の感情移入がしやすいとも言える。ハートの演技は大げさな部分もあり、自分が殺した男の母親に優しくされ(そこにはロウドンが自身の母親を重ね合わせていることだろう)、思わず涙ぐむシーンは特に大げさだが、それでも見ていて胸を打つものがあった。

 「鬼火ロウドン」が製作された1918年には、チャップリンは「犬の生活」や「担え銃」を発表している。映画史からいえば、「鬼火ロウドン」はとるに足らない作品かもしれない。「犬の生活」や「担え銃」が持つ感銘から比べれば、「鬼火ロウドン」はたいしたことのない作品かもしれない。しかし、「鬼火ロウドン」は決して悪くない。時代背景も、ハートという人物についての知識がなくとも、「鬼火ロウドン」は楽しめる。

 そんな「鬼火ロウドン」は何ともいとおしくなる作品である。それは、日本でハートの作品が「鬼火ロウドン」以外にはビデオやDVDで発売されていないという点もある。世界最大の映画データベース「IMDb」のコメントを見ると、ハートの作品の中で「鬼火ロウドン」は決して優れた作品の部類には入らないとも書かれていた。そうなのかもしれないが、「鬼火ロウドン」が私の心を打ったことは否定しようがない。

 ちなみに、「鬼火ロウドン」のストーリーが仁侠映画に似ているという点が、下記サイトに指摘されているしているので、興味のある方は読んでみて欲しい。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~st_octopus/MOVIE/BIRTHOFMOVIE/5HOLLYWOOD.htm

 私が1つ指摘したいことは、この作品が自然の大きさに対する人間の小ささを描いた作品でもあるということだ。冒頭、森を切り開く人間たち(特に実際に木を切る木こり)は、自然を破壊する人々として描かれる。ラスト、その木こりであるロウドンは、大きな罪とピストルで撃たれた傷を抱えながら、吹雪の森へと消えていく。自らを切り倒し、さらには罪を犯した男さえも、森はまるで抱きしめるようにロウドンを迎え入れているようだ。こういった余韻もまた、「鬼火ロウドン」を単なるメロドラマと片付けがたいものを私に感じさせるのだ。

鬼火ロウドン【字幕版】 [VHS]

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