映画評「呪の眼」 エルンスト・ルビッチ監督作

 原題「DIE AUGEN DER MUMIE MA(THE EYES OF THE MUMMY)」 製作国ドイツ パーグ製作 ウーファ配給
 監督エルンスト・ルビッチ 出演エミール・ヤニングス、ポーラ・ネグリ

 エジプトにやって来た画家のアルバートは、ラデューによって言いなりにさせられていた女性マを助け出して、イギリスへ連れ戻る。ラデューは、自分を捨てたマに復讐を誓う。

 日本語タイトル、英語タイトル、ドイツ語タイトルのどれをとっても、エジプトを舞台にしたミイラ男が登場するホラー映画を想像させるが、内容はどちらかというとメロドラマである。タイトルを見てホラー映画だと思うのは、現在から見た視点だからである。当時はまだ、超自然的なホラー映画は、ほぼ存在していなかった。

 監督はエルンスト・ルビッチである。だが、そこから期待するような演出面の素晴らしさは、「呪の眼」にはない。演出は極めてオーソドックスである。固定されたカメラは、舞台を撮影するかのように被写体を捉えている(1ヶ所だけ鏡を使って工夫して撮られたシーンがあるが)。

 ストーリーは、エジプトを絡めることでスパイスを加えているが、基本的には単純なメロドラマだ。エジプトではなくスラム街にし、ラデューとマをエジプト人ではなくてイギリス人の貧しい生まれに変えても、物語は十分に成り立つ。だが、エジプト人という設定は必要だったといえるだろう。なぜなら、エミール・ヤニングスとポーラ・ネグリが出演しているから。

 映画の最大の見所は、ヤニングスとネグリといっていいだろう。ヤニングスもネグリも、過剰なまでにエキゾチックさを強調する演技を見せる。特にネグリは、エジプト風の(あくまでも「風」の)ダンスまで披露してみせる。

 「呪の眼」は、映画会社を満足させたという。きっちりとスター2人の魅力を捉えているからだろう。ルビッチは、きっちりとその仕事を果たしている。

 ミイラ男は登場しないし、ルビッチ監督作としては平凡な演出かもしれない。今見ても面白くないかもしれない。だが、ヤニングスとネグリという役者に、当時の人々が求めていたものが何だったのかを、「呪の眼」は教えてくれる。