「散りゆく花」とリリアン・ギッシュ

 「散りゆく花」(1919)にリチャード・バーセルメスと共に主演しているリリアン・ギッシュは、ギッシュとD・W・グリフィスのコンビの十八番である不幸に押しつぶされる役を、細やかな感情の表現で見せてくれる。ローブに触れようとする指先が興奮で打ち震えるシーンを例に取り、アレクザンダー・ウォーカーは、「スターダム」の中で「彼女(ギッシュ)はこのように彼女の身体の末端、つまり指先や足先で演技するのである」とギッシュのことを表現している。

 グリフィスはかねてからギッシュに、小動物や鳥を観察するように助言していたと言われ、そういった助言がこの作品では活きている。また、ギッシュは憂いに満ちた表情がより強調される外見を持っており、かつての旅劇団時代では、実生活でも舞台でも不幸を背負い込む練習をしていたこともあり、この役柄を見事に演じられたとも言われている。また、指で無理やり笑顔を作るシーンはギッシュ自身が考えたのだという。

 リリアン・ギッシュの功績が大きい「散り行く花」だが、当初ギッシュはもっと若い女優が適していると考えた。だがグリフィスは、若い女優では厳しい境遇の役を演じられないとリリアンを説得したという。ちなみに、撮影中に当時大流行していたインフルエンザに、ギッシュやスタッフがかかってしまったという。元々病原菌を神経質なまでに嫌うグリフィスは、当時多くの死者が出ていたインフルエンザにかかったギッシュにマスクをさせ、あまり近づかなかったという。

リリアン・ギッシュ自伝―映画とグリフィスと私 (リュミエール叢書)

リリアン・ギッシュ自伝―映画とグリフィスと私 (リュミエール叢書)