奇術師 ハリー・フーディーニと映画

 当時、世界的に有名だったアメリカの奇術師にハリー・フーディーニという人物がいた。フーディーニの得意な奇術は「脱出」だった。現在でもよく行われている、縛られた状態からの脱出である。

 すでに奇術師としての名声を得ていたフーディーニは、1919年から本格的に映画に出演するようになる(「天才フーディーニのパリでの驚嘆すべき離れ業」(1902)という4分弱の作品にも出演したことはあった。誤解からパリの警官にとらえられ、妙技によって脱獄するという内容)。

 「人間タンク(The Master Mystery)」(1919)は全15話の連続活劇である。毎回危機から脱出するという展開は、「脱出」の奇術を得意とするフーディーニに合っていた。ストーリーは、フーディーニが扮する司法省の秘密調査員が、不正を働く会社に襲われるというものだった。途中で敵がロボットを使い、フーディーニを襲うというシーンがある。このロボットは映画史上初のロボットとも言われている。フーディーニは自分の秘技をここぞとばかりに披露して、賞賛された。また、興行的にも世界中でヒットした。この点で、フーディーニを世界最初のアクション・スターとして捉える意見もある。

 「The Grim Game(猛襲)」(1919)は、フェイマス・プレイヤーズ・ラスキーと契約した長編映画で、フーディーニは週給2,500ドルで契約を結んだ。映画の物語は連続活劇的で、新聞記者役のフーディーニが殺人者の汚名を着せられて逃げ、危機に陥っては脱出するの繰り返しだと言われている。脱出シーンはフーディーニが脚本を書き、演出を行ったという。

 飛行機から飛行機に飛び移るシーンがあるのだが、この撮影の際に飛行機が墜落するという事故が起こっている。フェイマス・プレイヤーズ・ラスキーは事故を大々的に宣伝し、不死身のフーディーニの神話を作ったが、実際にはフーディーニは直前にケガをして撮影に参加していなかったという。だが、フーディーニはすべて自分がやったと言い張り、神話を作りあげている。

 ちなみに日本では、社会保安上の理由で鍵や手錠をはずす場面がカットされている。また、当時のフーディーニは、チャールズ・チャップリングロリア・スワンソンと友人となり、スター暮らしを楽しんだという。

サーカスが来た!―アメリカ大衆文化覚書 (同時代ライブラリー)

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