ドイツ 「パッション」とエルンスト・ルビッチの活躍

 ドイツでは、エルンスト・ルビッチが、脚本ハンス・クレーリや美術クルト・リヒターらの協力で「パッション」(1919)を監督している。

 フランスのルイ15世の愛人として有名なマダム・デュバリーにヒントを得た作品だった。

 ルイ十五世の愛人デュバリー伯爵夫人は、しがない店員から出世して、国王を背後から操る権力者となった。デュバリー夫人の恋人アルマンは、パイエの指導する革命運動に加わり投獄。国王は死に、革命は成功。捕らえられたデュバリー夫人はアルマンを裁判長とする法廷に。アルマンは夫人を助けようとするが、怒ったパイエによって、ギロチンにかけられるというストーリーだった。デュバリー夫人は実在の人物だが、物語はフィクションである。

 革命を歴史から個人の問題に移し変え、民衆の行動を集団的な復讐の次元に置き換えた、非政治的娯楽作としてルビッチは仕上げている。

 ポーラ・ネグリエミール・ヤニングスが主演し、巨額の製作費をかけたこの作品は、興行的に成功を収めた。群衆の処理にマックス・ラインハルトの影響が見られるという。ウーファ社によって製作されたこの作品は、ウーファ社によるドイツ最大の映画館パラスト・アム・ツォーのこけら落としとして封切りされている。

 「パッション」は、第一次大戦の影響で世界的に封鎖状態にあったドイツ映画に、国際的な市場を取り戻すことに成功した作品でもある。

 ルビッチは他にも、喜劇の「牡蠣の王女」(1919)や、「陶酔」「花嫁人形」(1919)も製作し、活躍した。

無声映画芸術の成熟―トーキーの跫音1919‐1929 (世界映画全史)

無声映画芸術の成熟―トーキーの跫音1919‐1929 (世界映画全史)