映画評「夫を変へる勿れ」

 原題「DON'T CHANGE YOUR HUSBAND」 製作国アメリ
 アートクラフト・ピクチャーズ製作・配給
 監督セシル・B・デミル 脚本ジャニー・マクファーソン 出演グロリア・スワンソン

 若妻のレイラは、身なりも仕草もだらしのない夫ジェイムズに嫌気がさしている。そんなときに、スカイラーという男がレイラに言い寄ってくる。レイラはジェイムズと離婚し、スカイラーと再婚する。だが、そのスカイラーはジェイムズ以上にだらしがない上に、浮気までしているのだった。

 この頃、セシル・B・デミルは上流階級の人々を主人公にした、セックス・アピールを売り物にした作品を監督していた。そこで、グロリア・スワンソンという女優を得て、デミルの監督する作品はさらに人気を得ていき、スワンソン自身もスターとなっていく。この作品は、そんなデミル=スワンソンによるコンビの第一作である。

 ストーリーは、デミルが監督した「OLD WIVES FOR NEW(醒めよ人妻)」(1918)の夫と妻を反対にした内容と言える。しかし、共通しているのは女性の方が悪いように描かれているということだ。「夫を変へる勿れ」のスワンソンは、夫がだらしがないとはいえ、夫よりもひどい男と再婚してしまう愚かな女性のように描かれている。こういった男性中心的な点は指摘しておく必要があるかもしれない。

 それでも、「醒めよ人妻」よりも「夫を変へる勿れ」の方がヒットしたというのはおもしろい。そこにはもちろん、出演者の違いなどがあるとは思う。だが、一方で女性たちは、自分たちが説教されているような映画よりも、自分たちを大事にするように男たちに説教している映画の方を好んだのだろう。

 スワンソンは多くの印象的な衣装を身にまとい、映画に華やかさを与えている。また、困ったような表情が印象的である。同じ年に作られたデミル監督の「男性と女性」(1919)でも、金持ち娘の偉そうな表情が、無人島での生活に対応できずに困ったような表情になる変遷が印象的だった。

 スワンソンが美人かどうかと問われると、私は美人とは言えないと思う。だが、他の女優たちが単にきれいだったり、かわいかったりするのに対して、スワンソンには表面上とは違う部分の魅力があるように感じられる。それは、小柄な体とは似つかわしくないともいえる大きな態度だったり、時折見せる困った表情だったりする。

 脚本は非常にわかりやすい。だらしがないジェイムズと一見しっかりとしたスカイラーの違いを、服装や仕草の対比で見せる。また、妻を失ったジェイムズが改心したことを、髭を剃ることで表現してみせる(「髭を剃る」という行動は、「醒めよ人妻」でも効果的に使われていた)。

 ストーリーはわかりやすいのだが、字幕に頼っている部分も多く、映画的とはいえない。そこでデミルは、スカイラーがレイラを口説くシーンで、口説き文句に合わせて、レイラの空想をきらびやかで淫靡な映像で見せる。このあたりがデミルの真骨頂と言えるだろう。蜘蛛の巣をモチーフにしたブランコに、蝶を思わせる衣装のスワンソンが座って揺れるシーンは、そのアイデアの奇抜さとアート作品を思わせるセットに感心させられる。ストーリー自体とはまったく無関係のこのショットは、舞台劇的な演出にアクセントを与えることに成功している。

 この作品は、スマッシュ・ヒットとなり、スワンソンはスターとなる足がかりを掴んだといわれている。ちなみに、検閲でも問題なく通過したという。アメリカ国内で検閲が厳しくなるのは、もう少したってからである。