映画評「孤児の生涯」

 原題「DADDY-LONG-LEGS」 製作国アメリ
 メアリー・ピックフォード・カンパニー製作 ファースト・ナショナル配給
 製作・主演メアリー・ピックフォード 監督マーシャル・ニーラン 原作ジーン・ウェブスター

 孤児院で育ったジュディは、両親がいないにも関わらず、明るく元気に育っている。そんなジュディに対して、匿名の男性が資金援助をしてくれ、大学へ行くことができるようになる。ジュディは、匿名の男性を「DADDY-LONG-LEGS(足ながおじさん)」と呼ぶようになる。有名な「足ながおじさん」が原作。

 前年に出演した「AMARILLY OF CLOTHES-LINE ALLEY」が、比較的実年齢と近い役柄だったのに対し、この作品でのピックフォードが演じるジュディは12歳の設定である(公開当時26歳)。正直言って、12歳には厳しいものがあるが、それでも快活な表情や動きはそんな設定を忘れさせてくれる活力に溢れている。

 孤児院を舞台にした前半は、孤児にも関わらず、真っ直ぐな少女としてのジュディの様子を描くことに終始している。ジュディは、常に明るく、権力に迎合せず、他の孤児に優しい。ストーリーは特に展開するわけではなく、孤児院での日常のスケッチという感じのこれらのシーンは、見ていて楽しい。こちらの気持ちが自然と上向きになっていくのを感じ、ピックフォードが国民的な人気を得た理由が分かるような気がする。

 「足ながおじさん」がジュディを大学に通わせてくれるようになってからの後半は(いつの間にジュディが成長したのかは描かれていないのだが)、ピックフォードは少し大人になった役柄を演じており、背伸びしないで演じている。そして、後半のピックフォードは女性としての魅力に満ちている。

 後半のピックフォードは大げさな身振り手振りは影を潜め、しっとりとした魅力を放っている。この頃、大人びた役も演じたかったが、観客の要望から子役を演じ続けていたピックフォードは、そのフラストレーションを晴らすために、劇中劇や想像のシーンなどで大人の役柄も演じていたが、この作品では主人公が成長したという設定で大人の役も演じている。

 この作品は、ピックフォードが最終の編集権も手に入れた最初の作品だったといわれている。それは、当時のピックフォードの人気の高さと力の強さを物語るものだ。また、そのピックフォードの映画製作における力の強さからか、ピックフォードが非常に綺麗に撮られている。左側からのショットが多いのは、その方が綺麗に見えるという研究結果からかもしれない。監督は、ピックフォードの作品を多く手がけているマーシャル・ニーランだ。ピックフォードとの息もぴったりだ。

 正直言って、ストーリーは今ひとつだ。孤児院の女性所長のキャラクターは、ジュディに否定的だったり好意的だったりとコロコロと変わる。ストーリーには絡んでこない上に、特に面白さを与えてくれるわけではないキャラクターも多く登場する。最も大きいのは、足ながおじさんの正体である。途中で大体予想がつくのはまだしも、結局なぜ匿名でジュディの後援をしたのかはよく分からない。

 ピックフォードの少女役の魅力と、女性の役柄の魅力の両面を味わうことが出来るこの作品にとって、もしかしたらストーリー自体はどうでもいいのかもしれない。映画のラスト。ジュディはイスに座った足ながおじさんに抱え込まれキスをされる。画面はイスの背から撮影しているため、キスの様子は観客には見えない。観客は、最初いやがってバタバタとしている足が、徐々に大人しくなり、最後には心地よさそうにブラブラする様子を見ることになる。その足を見ていると、ジュディにとっては足ながおじさんの意図がどうであろうとあまり関係なさそうだ。そして、ジュディがキスに満足しているように、ピックフォードも女性の魅力を演じることに満足しているのかもしれない。さらに、見ているこちらも楽しい気分にさせられるなら、ストーリーはもはや、どうでもいいのではないだろうか。