映画評「泥中の薔薇」

 原題「THE WICKED DARLING」 製作国アメリ
 ユニヴァーサル・フィルム・マニュファクチャリング製作・配給
 監督トッド・ブラウニング 出演プリシラ・ディーン、ロン・チェイニー

 女泥棒のメアリーは、かつて金持ちだったケントと出会い、恋に落ちる。ケントはメアリーが盗んだ真珠の持ち主の元夫だった。まっとうな生活を送ろうと決意するメアリーだが、かつてのボスのコナーズはメアリーが盗んだ真珠を狙って彼女を追い回す。

 トッド・ブラウニングといえば、後に「フリークス」(1932)を監督することで有名だが、この頃は多くのメロドラマを手がけ、この映画にも主演している女優プリシラ・ディーンとのコンビ作で、ヒット・メーカーとしても活躍していた。また、助演として出演しているロン・チェイニーとは、1920年代に多くの作品でコンビを組んでいくことになる。

 女性の泥棒が、愛する男性の力も借りて更生しようとするという、非常にストレートな物語である。ブラウニング監督=チェイニー出演から来る、怪奇的なイメージはここにはない。メイクアップと演技力を駆使して、様々なキャラクターを演じたチェイニーだが、この作品では素顔で登場しており、それほど強い印象は残していない。

 チェイニーよりも、泥棒と結びついている質屋の男の方が、この映画では不気味だ。チェイニー演じるコナーズがメアリーの指を折ろうとするシーンでは、うれしそうな顔で手を叩いて喜んでいる。その不気味さは、コナーズが思わず指を折るのをやめるほどだ。

 ちなみに当時は光量の問題から、夜のシーンの演出は昼間に撮影され、フィルムを青に染色することで夜を表現したケースが多かったが、この作品では夜に撮影が行われたという。

 ブラウニングとチェイニーが組むことによる独自性や相乗効果は、この作品にはまだない。だが、軽く楽しめる作品であるとは言えるだろう。