映画評「VICTORY」

 製作国アメリ
 モーリス・ターナー・プロダクションズ製作 パラマウント=アートクラフト・ピクチャーズ配給
 製作・監督モーリス・ターナー、原作ジョゼフ・コンラッド
 出演ジャック・ホルト シーナ・オーウェン ロン・チェイニー ウォーレス・ビアリー

 南海の島で孤独な暮らしを楽しんでいたヘイストだったが、アルマという不幸な女性を助け出して自分の住む島へと連れてくる。さらに、島には三人組の犯罪者たちまでやって来る。

 文明と自然、理想と現実といったテーマを若干含んでいるものの、映画はそういったテーマを深追いはしていない。印象に残ったのは、ターナーによる光と影の演出と、出演者たちのインパクトである。

 ターナーの演出は光と影を上手く使っている。ジョーンズを首領とする犯罪者集団の闇は、ホテルにやって来た彼らがギャンブルをしているシーンでの照明に使い方で見事に表現されている。リカルドが愛着を持っている、床に突き刺さったナイフを捉えた短いショットでは、照明を斜めに当てて、不気味さを増幅させている。

 「千の顔を持つ男」と言われたロン・チェイニーが出演している。チェイニーといえば、「ノートルダムのせむし男」(1922)や、「オペラの怪人」(1925)で、メイク・アップ技術を駆使した演技を見せてくれる。だが、この作品では、そういった凝ったメイク・アップを使用せずに、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう犯罪者の恐ろしさを、その容貌と演技で見せてくれる。サングラスと白のスーツにオール・バックという、ジョーンズが醸しだすシュールな恐ろしさと共に、リカルドの生々しい恐ろしさは強い印象を残す。

 もう1人、強い印象を残すのが、シーナ・オーウェンが演じるアルマだ。アルマは、逃げ場所のない状況からヘイストによって助け出される。だが、いざ助け出されると、それはそれで満足を得られない。それは、ヘイストがアルマに対して、性的な欲求を抱かない点にもあるだろうことが、バスタオル1枚のアルマに対しても兄妹に対して振舞うヘイストとのシーンに見える。

 そんなアルマの人間臭さと、リカルドのギラギラとした生気がぶつかり合うシーンがある。リカルドがアルマの性的魅力から、アルマを襲うシーンである。このシーンは、ターナーの見せない演出もあり、魅力溢れるシーンとなっている。アルマによって拒絶されたリカルドが「鉄のような指をしてるな」と語るのを聞いて、アルマが微笑むシーンでは、アルマ本人は認めなくないであろう刺激を求めていたことが伝わってくるようだ。

 全体的に、ストーリー展開を字幕にまかせ過ぎているようにも感じられるが、それを補ってあまりあるターナーの見事な演出と、演技陣の見事なアンサンブルがこの映画にはある。個性も魅力もないように感じられる主人公のホイストでさえ、その地味さがアンサンブルに加わると、見事にハーモニーの一部となっているように思う。魅力的なサイレント映画の一形態として、記憶にしておいて損はない作品だ。