映画評「疾風の如くに」

 原題「THE ROARING ROAD」 製作国アメリ
 フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー製作 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督ジェームズ・クルーズ 出演ウォーレス・リード セオドア・ロバーツ

 カー・レースに情熱を燃やすJ・D・ウォードは、彼の娘ドロシーと恋仲であるトゥードルズと反目している。ロサンゼルス=サンフランシスコ間の記録を破りたいウォードは、ドロシーを誘拐して汽車で旅立つフリをして、トゥードルズに車で追いかけさせる。

 ウォーレス・リードは1923年に麻薬中毒で死亡する。スターだったリードのスキャンダルは、当時のハリウッドに対して向けられていた世間の非難を高め、リードの名前は今ではあまり知られていない。リードは事故で負った怪我の痛みを和らげるためにモルヒネを常用しており、快楽のための麻薬中毒ではなかったので、不幸なスターといえる。この作品は、リードがスターだった頃に作られた作品である。

 カー・レースのシーンは、はっきり言ってしまって、後年作られる様々なカー・レース映画と比較すると、迫力の点で物足りない。技術的な問題といえるので、それは仕方がないことだろう。この映画が製作された当時は、車はまだ新しい乗り物であり、運転がうまいということは、かなりのステータスだったと思われる。そんな格好いい男としてリードが描かれていることからも、彼がスターだったことが伺える。

 リード演じるドゥードルズとロバーツ演じるウォードの、反目しあいながらも互いの欲求を満たしあうという関係性が面白い。特にウォードの抜け目のなさと、カー・レースに燃やす情熱が映画に魅力をもたらす。通常であれば、主人公の恋路を邪魔する悪役なのだが、馬鹿とも言えるほどのカー・レースへの情熱が、ウォードに愛嬌を与えている。

 キャラクターの造形と共に、この映画の構成にも目を向ける必要がある。序盤に、ウォードの念願であるカー・レースのシーンを織り込み、映画を盛り上げている。短い映画ならば、これだけで1本の映画となる。こうしてクライマックスからスタートし、ストーリーを進展させ、再びクライマックスへと盛り上げていく。

 長編化した映画は、観客を楽しませるために様々な工夫を凝らすようになってきた。この作品に見られる、魅力的なキャラクターの造形、クライマックスをいくつも織り込むといった手法は、今の映画では常識ともいえるものだ。この作品は、娯楽映画の鉄則とも言えるものを早くも持ち込んでいる。