映画評「暗雲晴れて」

 原題「WHEN THE CLOUDS ROLL BY」 製作国アメリ
 ダグラス・フェアバンクス・ピクチャーズ製作 ユナイテッド・アーティスツ配給。
 監督ヴィクター・フレミング、セオドア・リード 製作・脚本・主演ダグラス・フェアバンクス

 メッツ博士は実験を行っていた。それは、青年ダニエルを精神的に追い詰めて、死に追いやることができるかの実験だった。ダニエルに迷信を信じ込ませ、仕事も恋もうまくいかなくなるように仕向けた。ダニエルは落ち込み、ついに銃口を自らの頭に向ける。

 この映画は面白い。知的でシニカルなストーリー、シュールな映像、フェアバンクスによるアクション、そして恋。この映画が登場する前に形作られたあらゆる要素が詰め込まれている上に、見事にまとまっている。驚異的ですらある。

 冒頭からシュールな映像で魅了してくれる。ダニエルが食べた玉ねぎやロブスターなどが胃の中で暴れる様子が、着ぐるみの玉ねぎやロブスターで表現されている。夢の中では、ダニエルが着ぐるみの玉ねぎたちに追われる。ここではスロー・モーションや二重写しといった既存の映像テクニックに加えて、フレッド・アステアが「恋愛準決勝戦」(1951)で見せる部屋の壁や天井を歩くシーンなど、オリジナリティ溢れるシュールな映像の連続がたまらない。

 正直、面白いのはここだけだと思っていた。だが、ここからがまた面白い。元気で快活さが売りのダグラス・フェアバンクスが、この映画では迷信深さに振り回される男を演じている。迷信のせいで、出社するのも一苦労。だが、何たる皮肉か、その迷信深さが運命の女性との出会いにつながる。このあたりが、脚本に捻りと皮肉を加えたオリジナリティ溢れる作品となっている所以だ。

 ダニエルが開き直った後は、他の映画でも見たような展開をたどる。だが、ダムの決壊によるスペクタクル・シーンが待っている。はっきりと分かるミニ
チュアは、手作り感溢れる映画作りを思わせて、何とも微笑ましい。同時に家を流してしまう洪水の迫力も見せてくれるのだから、ミニチュアに文句を言う必要はない。

 サイレント映画というと、チャールズ・チャップリンなどのコメディや、「イントレランス」(1916)のような堂々たる大作ばかりがソフト化されているため、こういったオリジナリティに溢れた中編は見逃されがちだ。そして、「奇傑ゾロ」(1920)や「バグダッドの盗賊」(1925)のようなヒーロー役として日本では認識されているダグラス・フェアバンクスにとっても、不幸な話である。

 はっきり言おう。「暗雲晴れて」は傑作である。私が見たサイレント映画の中でも10本に入る傑作である。