映画評「花嫁人形」

 製作国ドイツ 原題「DIE PUPPE」
 製作パーグ 配給ウーファ
 監督・脚本エルンスト・ルビッチ

 ある男爵が甥のランスロに遺産を譲ろうとするが、条件として結婚することを求める。女性嫌いのランスロは寺院に逃げ込むが、僧の入れ知恵により、天才的人形職人が作った人形と結婚したフリをしようとする。人形職人の娘オッシとそっくりに作られた人形をランスロは買うが、本当の人形は壊れており、ごまかすためにオッシが人形になりすましていたのだった。

 「花嫁人形」は面白い。本当に面白いコメディだ。ストーリーはひねりが効いているし、脇役である人形職人の子供の徒弟に至るまでキャラクターは個性的だ。「牡蠣の女王」(1919)でも発揮されていたミュージカル的なリズミカルさは楽しいし、人形のフリをしたオッシのカクカクした動きはそれだけで面白い。舞台的な書き割りを使ったセットや着ぐるみ(馬車の馬)に加えて、人形職人がオッシを売ってしまったことを知ったときの髪が逆立った上に真っ白になるストップモーションを使ったシュールな演出は、現実にはありえないおとぎ話の世界にぴったりだ。

 特徴的な点を挙げるとしたら、極めてサイレント映画的であるという点だろう。よくできた人形と、本物の人間の違いに気づかないというのは、正直言ってありえない。もし、音のある世界だったら、設定の無理な部分がもっと気になったのではないだろうか。サイレントだからこそ、言葉、呼吸音、腹が減った時のおなかの音、動いた時の衣ずれなどを気にすることなく、シュールな設定に入り込みやすい。人形のフリをするオッシの動きのおもしろさは、まさに目で楽しむサイレント映画の手法だ。アメリカのコメディが大げさに表現するところを、ルビッチは設定による動きで面白さを表現している。

 ルビッチは、サイレント映画というメディアを活かして、シュールな設定のコメディを極めて視覚的に仕上げている。この作品には、洗練された「ルビッチ・タッチ」はない。だが、サイレント映画のコメディの分野でも一流の監督であることを、「花嫁人形」は証明している。

 映画の勉強のためではなく、「花嫁人形」は心から楽しむことができた。