映画評「DIFFERENT FROM THE OTHERS」

 製作国ドイツ
 製作リヒャルト・オズワルド・プロダクション
 監督・製作・脚本リヒャルト・オズワルド 出演コンラート・ファイト

 ゲイのヴァイオリニストであるケルナーの元に、若い青年であるクルツが指導を求めにやって来る。ケルナーがゲイであることを知ったクルツは、ケルナーの元を去る。そんなケルナーに、ゲイであることをネタに恐喝者が金を要求してくる。

 当時のドイツでは同性愛を禁じる法案があったという。そんな状況下で、真っ向から法律の改正を要求する姿勢に驚かされる。時代は1919年である。「子供の福祉を良くしよう」といったメッセージを持った作品は他にもあるものの、同性愛となると話はそれほど単純ではないからだ。

 ドイツにおいては、この後のナチスによる同性愛者の弾圧などを経て、全面的に同性愛禁止の法案が撤回されるのは1994年になってからになるという。その間、ドイツだけではなく、世界各地で同性愛については議論が戦わされ、同性愛を扱った多くの映画が作られた。そして、それは今もまだ続いている。それくらい、同性愛は難しい問題だといえるだろう。

 映画は、1人のゲイのヴァイオリニストが辿る悲劇を描くことで、この後も同じような不幸に遭う人が出ないようにしなければならないという展開になっている。途中で、同性愛について研究する学者(実際の学者で、この作品の脚本も担当している)が、人々に同性愛は特異なものではなく、自然なものであることを解説するシーンが挿入されている。このシーンは字幕に次ぐ字幕であり、映画を見ているというよりも、本を読んでいるような気持ちになるが、それは同性愛についての知識を啓蒙しようという映画の意思のあらわれでもある。

 この作品は同性愛者であることが明示されたキャラクターが登場する初の映画と言われている。それまでも、女装はアメリカのスラップスティック・コメディではおなじみのモチーフだったし、ゲイを思わせるキャラクターは多く登場したが、はっきりと明示されたものはなかった。

 驚くべきは、主人公の同性愛者ケルナーの仕草や服装などが、現在の映画で描かれる同性愛者のものと同じだということだ。これは、演じるコンラート・ファイトが同性愛者をよく研究していたのだとも言える一方で、ゲイの男性の描き方のステレオ・タイプがこの頃から変わっていないともいえるのかもしれない。

 この作品は、ゲイについて真っ向から描いた初の映画として、そして法という国家の根幹の改正を敢然と要求する映画として、非常に貴重な作品だ。1919年という時代を考えるとなおさらである。この映画は残念ながら1920年に上映禁止となってしまう。そのことがまた、この作品の価値の大きさを物語っている。

 消失されていたと思われたこの作品は、モスクワに一部が残されていたという。私が見たのは、残されていたフィルムに字幕やスチール写真を組み合わせて、ストーリーが分かるように構成された50分のものだ。