映画評「戦争と平和」

 原題「J’ACCUSE」 製作国フランス
 製作・配給パテ・フレール 監督・脚本アベル・ガンス

 フランスの田舎町。ジャンは、フランシスの妻であるエディスに恋をしている。第一次大戦が勃発し、フランシスは出征する。さらに、エディスがドイツ兵に捕まえられたことを知ったジャンも出征し、ジャンとフランシスは同じ隊の仲間となる。

 アベル・ガンスによる戦争大作である。しかしよく見ると、戦闘シーンはストック・フィルムを多く使用しており、撮影されたシーンの多くは塹壕であることが分かるだろう。とはいえ、2時間40分を超える作品は、当時の基準でも、今の基準でも堂々たる大作であることに違いはない。

 物語は基本的に、ジャンとフランシスの男2人と、美しいエディスの三角関係が中心だ。途中に戦争への出征や、エディスがドイツ人にレイプされて子供を産むといった、戦争ならではのことが起こるものの、基本的には三角関係が物語の中心を占めている。

 特筆すべきは、後半だろう。戦闘で死んでいった兵士たちが甦り、自分たちの死に意味があったのかを問うという、超自然的な現象が起こる。これは、悲惨な体験から精神に異常をきたしたジャンが語るところの物語となっており、完全な超自然的な現象とは描かれていないものの、かなり野心的な試みといえるだろう。戦争映画といえば、死んでいった者の悲しみが描かれることはなく、残された者の悲しみが描かれる。当然だ。死んでしまったものは悲しみすら感じることができないのだ。その意味で、死者が生者に直接語りかけるという設定は斬新だ。

 後半の超自然的な部分を除いても、「戦争と平和」が戦争の悲しさを巧みに描いている点にも触れておく必要があるだろう。たとえば、詩人のジャンが美しいフランスを謳い上げたスケッチは、戦争から戻ってきたジャンにとっては価値を見出せない落書きに過ぎない。そんなジャンの心に浮かぶ言葉は1つだけ、「私は弾劾する(原題)」だ。アベル・ガンスが、並の映画に見出せるような映画のテクニックは保持していたことが分かる。

 「戦争と平和」は、戦争への嫌悪感を、アベル・ガンス流に描き上げた作品である。大作好きのガンスは、必要以上の時間をかけて、「戦争と平和」を仕上げているように感じられる。だが、その面も含めて、ガンスならではの反戦映画と言えるだろう。