映画評「吹雪の夜」

 原題「HERR ARNES PENGAR」 製作国スウェーデン
 監督・脚本モーリッツ・スティルレル

 投獄されていた3人の男たちが脱獄。空腹と冬の寒さから逃れるために、金持ちの家に押し入り、住人たちを殺して銀貨を奪い去る。金持ちの家の唯一の生き残りの少女は、1人の男と出会って恋に落ちる。だが、その男は、少女と一緒に暮らしていた住人たちを殺した犯人の1人だった。

 なかなか複雑なストーリーだ。少女が愛するようになる男は人殺しである。それも、かなりひどい人殺しである。純粋無垢な少女が愛するには、不適格だといってもいいだろう。しかし、ハンサムな男に少女は惹かれてしまう。少女は悩む。妹同然に一緒に育った少女は、亡霊となって少女に男が犯人であることを知らせてくる。男は少女に一緒にスコットランドへ行こうと誘ってくる・・・。

 当時のアメリカ映画の多くは、勧善懲悪ものだった。リリアン・ギッシュにも似た少女は、リリアン・ギッシュが演じた少女よりも、より人間臭い。最後は、非常に人道的とも言える展開をたどり、少女は街の人々が総出で葬列に参加してくれるほど(このシーンは見事だ)の存在になる。だが、そこにいたる道程は非常に人間臭い。

 当時のスウェーデン映画を語る上で、自然を巧みに生かしたロケ撮影の素晴らしさが語られることが多い。この作品では、スウェーデンの冬の厳しさが、凍った海や雪原によって見事に描かれている。加えて、二重写しによる幻想的な映像の見所だ。時に不吉な予兆として、時に殺人犯の良心の呵責の表現として、時に少女に殺人犯を教える亡霊として、映画ならではの表現としてうまく使われている。

 「吹雪の夜」は、当時のスウェーデン映画の質の高さを示す好例といえるだろう。そして、伝説的な監督の1人であるモーリッツ・スティルレルの腕前の確かさを示す証拠の1つでもある。