「東への道」のリリアン・ギッシュ セックスさえも純化した愛に

 D・W・グリフィスとリリアン・ギッシュのコンビ作を見ていくと、リリアン・ギッシュが果たしている役割がどんどん大きくなっていくのが分かる。「東への道」のリリアン・ギッシュの演技については、アレキザンダー・ウォーカーが「スターダム」の中で次のように語っている。

 「彼女はこのような瞬間(「東への道」の死んだ赤ん坊への洗礼シーン)を特別な見せ場ではないところに、ごくさり気なく単なる型通りの形式を越えて作り出すことができた」

 ウォーカーが語っているように、リリアン・ギッシュの演技は「東への道」の全体にわたって魅力を増すことに成功しているように感じられる。

 余談だが、テネシー・ウィリアムズは「欲望という名の電車」を書き上げる前に、草案として「マドンナの肖像」という作品をギッシュのために書いたのだという。ウィリアムズは作品に込めた狂気を、リリアン・ギッシュであれば説得力を持って描き出すことができると考えたのだろう。

 「東への道」では、リリアン・ギッシュが演じる主人公は妊娠する。しかし、性的な側面は強調されていない。グリフィスもリリアン・ギッシュも性的な側面には深く立ち入らず、愛について描こうとした。そんなリリアン・ギッシュの演技をウォーカーは前述の「スターダム」の中で次のように書いている。

 「彼女(ギッシュ)は愛を内面化し、また内面化を通してそれを純化するのだ」

 リリアン・ギッシュの演技は、セックスさえも純化した愛へと変貌させるのだ。

スターダム―ハリウッド現象の光と影

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