映画評「何故妻を換へる?」

 原題「WHY CHANGE YOUR WIFE?」 製作国アメリ
 アートクラフト・ピクチャーズ製作 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督・製作セシル・B・デミル 製作総指揮ジェシー・L・ラスキー 出演グロリア・スワンソン ベーブ・ダニエルズ

 妻のベスの口うるさい性格に我慢ができなくなったロバートは、派手なサリーと浮気をする。そのことがバレて、ロバートとベスは離婚し、ロバートはサリーと再婚する。自分が地味だったことが浮気の理由の1つだということを知ったベスは、思い切りお洒落をするようになる。一方ロバートとサリーの結婚生活はすぐにうまくいかなくなる。そんなある日、とある高級ホテルでロバートとベスは再会する。

 タイトルからして、「DON'T CHANGE YOUR HUSBAND(夫を変へる勿れ)」(1919)と対をなす作品と言える。タイトル通り、「DON'T CHANGE YOUR HUSBAND」が夫を換える話であるのに対して、こちらは妻を換える話だ。だが、決定的に異なる点もある。それは、この作品が教訓話ではないという点だ。

 ロバートは口うるさく、地味な性格のベスと別れる。だがその後ベスは、思いっきり派手は女性に変身するのだ。ロバートが再びベスに惹かれる理由は、再婚したサリーが結局口うるさいという点以上に、ベスが魅力的になったためであるように描かれている。

 もちろん、途中でサリーよりもベスの方がロバートを愛していることが分かるエピソードがあり、2人が再び結ばれることは当然の帰結のように描かれている。冒頭の地味なベスとロバートのやり取りに比較して、終わり近くの派手になったベスとロバートのやり取りの風景の差は大きい。ベスがかつて、当時第一次大戦が終わったばかりだった「ヨーロッパで苦しんでいる多くの人々のことを考えると」嫌がっていた贅沢は、完全に肯定されているかのようだ。

 この頃のデミルは、セックス・アピールを売り物にしつつも、最後は教訓話にまとめることで、世間の批判をかわしていた。この作品も一見教訓話のように見えながらも、そうはなっていない。そして、それはこの作品を魅力的にしているように感じられる。

 グロリア・スワンソンは刺繍のために眼鏡をかけて、地味なキャラクターを演じてみせる。おシャレになると開き直った後は、化粧によって顔も変わり、服も派手になる。それは、ホテルにいる多くの男たちが、思わず後を追いかけてしまうほどだ。このギャグのような展開が楽しい。この後、ベスとサリーの間に繰り広げられる女同士のバトルも、バナナの皮で滑って意識不明になるロバートも、真剣に捉えるとギャグのようで、だからこそ楽しい。

 道徳的に考えれば、この作品の内容は眉をひそめるものかもしれない。だが、第一次大戦の終焉から、繁栄の1920年代の幕開けに作られた作品としてはぴったりの、贅沢肯定の楽しい映画だ。