映画評「侠漢と悍馬」

製作国アメリカ 原題「SAND」 ウィリアム・S・ハート・プロダクションズ製作
フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー・コーポレーション、パラマウント・ピクチャーズ配給
監督・脚本ランバートヒルヤー 製作・出演ウィリアム・S・ハート 原作ラッセル・A・ボッグス 撮影ジョセフ・H・オーガスト、ドワイト・ウォーレン 編集ルロイ・ストーン 美術トーマス・A・ブリアリー
出演メアリー・サーマン、G・レイモンド・ナイ、パトリシア・パーマー、ビル・パットン、S・J・ビンガム

 列車運行管理の仕事を得て、西部の町へやってきたダン。そこで、以前から愛していたマーガレットと再会する。だが、ダンが持ち馬を愛しているというのを、別に愛している女性がいると勘違いしたマーガレットは悪漢のガーバーの求婚を受けてしまう。

 日本語題の「悍馬」は荒馬の意味だが、登場する馬はおとなしい。

 西部劇のスターとして、当時人気絶頂だったと言われるハートの製作・主演作品。パラマウントとの契約によって、多くの作品を製作・出演していた。この頃のハートの作品を見ると、代名詞の「グッド・バッド・マン」を演じた「人生の関所」(1920)のような作品もあるが、コメディなど他の要素が強い作品もある。「侠漢と悍馬」も、ラブ・コメディの要素が強い。

 ハート演じるダンは、列車運行管理者として登場する。モールス信号を使って通信したりといった仕事で、ハートらしくない。後半では、カウボーイとなって、列車強盗を食い止める活躍を見せるのでバランスは取れているものの、代名詞の「グッド・バッド・マン」ではない。

 ラブ・コメディの主役としてのハートは、(誤解からとはいえ)フラレて泣く。そしてボスと呼ぶ愛馬に、「お前だけだ」と話しかける。50歳を超えた大の大人が、フラレて涙したり、恋人に接するように馬に話しかける姿は、ちょっと見ていて恥ずかしいものがあった。コメディ作品で揶揄されるくらい頻繁に泣くハートだが、この作品の涙はちょっと女々しすぎる。

 「グッド・バッド・マン」を演じるハートがあまりに素晴らしすぎて、そうではないハートに違和感があるだけかもしれない。ハートに対して染み付いたイメージに囚われすぎているのかもしれない。ハートが「グッド・バッド・マン」だけを演じていたわけではないことを教えてくれたりもする。だが、ハートの十八番の「泣き」を見て、ちょっと笑ってしまった事実は消せない。もし、この部分が別の表現だったら、少し違った評価になっただろう。