映画評「法の外」

 原題「OUTSIDE THE LAW」 製作国アメリ
 ユニヴァーサル・フィルム・マニュファクチュアリング・カンパニー製作・配給
 監督・製作・脚本トッド・ブラウニング 出演プリシラ・ディーン、ロン・チェイニー

 かつては父マッデンと共に悪事を働いていた娘のモリーだが、真っ当に生きようとしていた。だが、マッデンのかつての部下であるマイクが、マッデンとモリーを消そうとする。マイクの右腕のビルはモリーを助け出そうとするのだが・・・ユニヴァーサルが特別作として製作した作品で、大ヒットとなった。

 ロン・チェイニーが悪役のマイクと、中国人の2役を演じている。マイクは素顔だが、中国人役は凝ったメイク・アップで目を吊り上げて演じられている。チェイニーの演技とメイク・アップは高く評価されたらしい。確かによく演じられているように感じられるが、だからといって映画全体を面白くなる要素とはなっていないように感じられた。点としての見所ではあっても、線や面にはつながっていない。

 その証拠にチェイニーは映画全体からすると、短時間しか登場しない。主演はあくまでもプリシラ・ディーン演じるモリーである。飛びぬけた美人とは思えないディーンだが、映画を見ていくと魅力を発揮していく。勝気な性格は表情によく現われており、追い込まれると男性に頼るというありがちなタイプでもなく、自立した存在として存在感を示している。悪事を働くときの生き生きとした表情には、性悪な面も覗かせる。

 映画が最も面白いのは、モリーとビルが人目を避けるためにアパートの一室にこもらざるを得なくなる部分だ。隠れて生きていかなければならない苦しさと、そこから一時でも抜け出したい欲求などが感じられる。そんな状況に陥ったモリーが、真っ当な生き方をしようと決意するきっかけとなるのが、無垢な子供に触れてというのは、ありがちだ。だが、監督のブラウニングは、ビルが子供に作ってあげた凧を伏線として使い、十字架のイメージを効果的に使ってみせる。これらの中盤のシーンは、2週間かけて撮影されたというクライマックスの格闘シーンよりも面白い。

 「法の外」には確かにチェイニーの見事な演技がある。だが、最大の見所はプリシラ・ディーンの魅力と、ブラウニングの確かな演出だろう。特にディーンは、この後スターとして活躍した理由が、この映画を見て納得できた。